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子供は消えた。人形に最後の最期まで嘘をついて
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『……た』
零次が何かを言う。
俺は少しだけ映像を巻き戻すと、パソコンのボタンを押して、音量を上げた。
『喉乾いた』
その声は俺が聞いていた零次の声とは段違いに低くて、やけに掠れていた。
零次が後部座席のドアを全開まで開ける。
『おい、開けてんじゃねえよ。匂いが車に映んだろうが』
車のそばにいる誰かからヤジが飛んできた。
その声に、聞き覚えがあった。
「俺だよ、今の」
零次の父親が笑って言う。
『ごめんなさい。でも父さん、俺……喉乾いた』
動画の中の零次が目に涙を浮かべ、怯えながらいう。
『そうか、わかった』
そう言うと、零次の父親は車から降りて、どこかへ消えた。
『ほら、飲めよ』
零次の父親がホースを持って車のとこに戻ってきて、後部座席のドアを限界まで閉めた。
ホースを持ってきてたから、ドアは完全に閉まりはしなかった。
父親は窓のカーテンを閉めると、後部座席にいる零次の顔に、ホースの水を勢いよくぶっかけた。
零次が水の冷たさに狼狽えて、手を左右に動かして暴れ回る。
なんで逃げないんだろうと思っていたら、零次の足首が縄で縛られていた。
中一の時から縛られてたのか。どうりで足があんなことになるわけだ。
父親が零次の身体に怒涛の勢いで水を掛ける。
零次の服が透けて、薄褐色の肌が露わになる。
零次は痩せていて、まるで骨に皮を付けただけのような、とてもひ弱そうな体つきをしていた。
信じられないくらい身体が華奢だ。俺と一緒にいた時の零次は俺より数キロ重いけど、男子高校生の平均よりは細いみたいな感じだったけど、これはその比じゃない。
父親は親指と人差し指でホースを持つと、残りの指でズボンのゴムを引っ張り、ホースを零次のズボンの中に入れた。
水浸しの零次のズボンの中に、ホースが入っていく。零次はズボンの中にホースを入れられるのを、抵抗もしないで、ただただ見ていた。
誰だこいつは?
なんで零次は抵抗してないんだ?
この零次は、昔の俺より自分の意思がない。
こんなんじゃ、人形がいたぶられてるのと同じではないか。
『んんっ、んうっ!』
父親がズボンの中にあるホースを上下左右に動かすたびに零次は声を上げて、身体をもぞもぞと動かした。
『うっ、あ、ああっ』
零次は上を見上げながら、ホースで身体を弄ばれるのを必死で耐えていた。
多分視線をホースから逸らすことで、気を紛らわそうとしているのだろう。
パソコンの画面越しに、幼い零次と目が合う。
零次の目は光が宿っていなかった。その目は何も映してはいなかった。
暗くて、星が舞う夜空よりもはるかに光がない。まるでこの世の全てに絶望したとでも言いたげな目。
その目は、虐待をされていた時の俺とは比べ物にならないほど暗くて、まるで、常軌を逸した化け物のようだった。
「あの、零次は、虐待をされてる時に、喋ったことがありますか?」
「悲鳴やうめき声なら、毎回あげてたぞ」
「そういう自然と出るものじゃなくて、虐待をされてる時に、やめてとか、そういう自分の気持ちを言ったことがありますか?」
「いや、ねえな。記憶の限りでは。おい、これは一体なんのための質問だ?」
「……言いません。教えません、あんたにだけは、絶対」
あいつは、俺の神様なんかじゃなかった。
あいつは、人形だったんだ。
だってあいつは、俺よりも自分の意思がなかった。
俺は人形になれなかった、自分の意思を殺すことだけは、どうしてもできなかった。
でもあいつは違う。自分の意思を殺していた。
だってホースを奪い取ろうとしないだけならまだしも、ホーズをズボンの中に入れられて身体を甚振られるのをただただ見ているだけなんて。ホースを入れられた時に、声もあげないなんて。そんな奴が人形じゃなかったら、一体なんなんだ。そんな奴のどこを見たら、『自分の意思を殺してない』って言えるんだよ。
多分あいつが人形じゃなくなったのは、高一になって、束の間の自由を手に入れた時。
その時からきっと徐々に父親に反抗したいって気持ちが現れて、あいつは人形じゃなくなった。あいつは人形じゃなくなったから、父親に逆らって動画を警察に渡すことができたんだ。
でも、それなのにあいつは死を選んだ。
あいつがそうしたのは、多分、俺と同じ理由だ。
あいつは人形じゃなくなることはできたけど、でも、それだけだった。自分の意思を完全に尊重できなかったんだ。
俺も、そうだった。
俺は零次に散々自分を大切にしろって言われたのに、父親に反抗し続けることができなかった。俺がそうなったのは、虐待を受けた身体が痛かったも理由のうちの一つだけど、一番は俺の心の問題だ。
自分を大切にしたいって想いより、親への恐怖心の方が強くなってしまっていたから、俺は自分を大切にできなかった。親に反抗し続けられなかった。
零次もきっとそうだ。
自分を大切にしたいって気持ちより、親への恐怖心の方が強くなってしまったから、あいつは身投げをしたんだ。
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