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人形はただの我儘な子供と一緒に生きることにした。
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「まあそれで、海里を通して自分を赦して、父親に反抗をした俺が得た結果は、散々なものだったんだけど。だから身投げした。俺は海里みたいに自分の味方をしてくれる母親がいるわけじゃないし、俺だけじゃとても親父には敵わないから、それなら死んだ方がマシかと思って」
「……ならなんで。なんで身投げをする直前で俺に言った? 二人でならどうにかできたかもしれないのに! 盗聴されてたとか、そういうのだけが、お前が俺に言わなかった理由なわけじゃないだろ!」
盗聴されてたなんてただの言い訳だ。もっと説得力のある、俺が納得する説明がほしい。
「……お前にだけは、同情されたくなかったから」
「……俺は同情なんてしねえよ」
「ああ、知ってる。でも、俺は人間不信だったから、絶対に同情しないって確信が欲しかったんだ。それでお前の前から姿を消した。俺はお前が俺をどれくらい大切に思ってるのか、知りたかった。その度合いが高ければ高いほど、俺に同情する確率は低いと思ってたから」
確かに仲がいいほど、同情はしないものなのしれない。だって仲が良かったら、同情する前に、心配をするハズだから。
「じゃあ零次は俺の気持ちを確かめたくて、俺の前から姿を消したのか?」
「ああ。まあ江ノ島に行ったの自体は自殺をするしか道がないと思ってたからだけど、海里に行き先を教えることもしなければ、一緒に連れていこうともしなかったのは、お前が俺を探すかどうかを確かめたかったから。俺のことが大切だったら、絶対に探し出してくれると思ったんだよ」
「人の気持ちをだしに使ってんじゃねえよ! 俺がどんだけ必死でお前を探し回ったと思ってんだよ!!!」
また、胸ぐらを掴んでいる手に力がこもる。
「ごめん。でも本当に俺、海里に同情されるのが怖くて」
「じゃあ他人のフリしたのも、それが理由か?」
「ああ、流石に義足で目が見えてないんじゃ、お前も同情するかと思って。でも全然しなかったな。それどころか聞くタイミング伺ってたし、対応が紳士すぎて、笑いそうになったわ」
楽しそうに歯を出して零次は笑う。
「笑ってんじゃねえ、お前はいちいち大袈裟なんだよ」
なんだか馬鹿にされてる感じがしたので、俺は零次にデコピンをした。
「いたっ!?」
額を抑えながら零次は笑う。
「だから笑うなって。俺は怒ってんだよ」
「ごめんごめん」
「なんでそんなに笑ってんだよ」
思わず眉間に皺を寄せる。
「幸せだなあと思って。やっぱ海里と再会できてよかった。同情されるの怖かったけど!」
顔をしわくちゃにして、心の底から嬉しそうに零次は言う。
「はあ。だからって他人のフリはやめろよ本当。性格悪い」
ため息をついて言う。
零次があまりにも嬉しそうに笑うから、怒る気が薄れてしまった。
「わかってる。もうしない」
そう言って、零次はわしゃわしゃと俺の頭を撫でた。
「身投げもやめろよ。お前はもっと自分を大切にしろ」
「……できるかな」
「できるかなじゃなくて、するんだよ! もう自分の命を粗末にだけはするな!」
「ああ、わかってる。でないと海里が泣いちゃうもんな?」
涙を流しながら、零次は笑う。
「そういうことじゃねえよ!」
盛大に声をあげて突っ込む。
完全にからかわれている。
「じゃあ泣かないのか?」
「いやそうじゃなくて! と、とにかく、勝手に怪我なんかしたら口聞かねえから!」
「ああ、肝に銘じておく」
そう言って、零次は太陽みたいに明るく笑った。
「零次」
「ん?」
隣にいる俺の頭を弄りながら、零次は首を傾げる。
「今まで、どうしてたんだ」
「そうだな……確か目を覚ましたのは、二年前の十二月くらいだな」
「は、はあっ!? じゃあ、身投げしてから一週間くらいで目を覚ましたのか?」
「ああ。ごめん、会いに来んのが遅くなって。ちょっと療養をしてて」
零次が申し訳なさそうに手を合わせる。
「療養って、リハビリとか?」
「ああ。身投げのせいで身体中に怪我してて、それに加えて片目が炎症を起こして脚が壊死してたから切断を余儀なくされて、それから一年半くらいはずっと病院で治療とリハビリをしてた。後見ての通り整形もした。万が一親父に出くわした時に俺なのがばれないために。……治療費は海で死にかけてた俺を助けてくれた夫婦に払ってもらった。親父のこととお前のこと全部話して、治療費は仕事して自分で払うから、医者の前で親のふりをしてくれないかって頼んだら、本当の息子みたいに接してくれるなら、喜んで親のふりをするし、治療費も払ってやるって言ってくれたから。その人達奥さんが体が弱いせいで子供ができなかったみたいでさ、俺のこと、まるで本当の息子みたいに可愛がってくれたんだ。すげぇ嬉しかったよ」
頬を赤くしながら、零次は照れたように笑う。
……本当に、いい人に拾われたんだな。
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