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クリスマスSS Uに反逆
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クリスマスSS 君が笑ってくれるなら(Uに反逆)
谷ケ崎の家を出てから、早四か月が経とうとしている、十二月二十四日、昼。
「…なんていうか。」
紅貴は、ぽつんと不平不満を口にしていた。
「さみしくないか??」
僕…源漆はうっと言葉を詰まらせた。
現在、僕達は1LDKのアパートの部屋を借りて細々とした生活を営んでいる。
着の身着のまま家を出て、当たり前と言えば当たり前に一文無しだった僕らは知り合いの伝手を辿り、何とかここまでの生活にこぎつけた。
けど、炬燵の上に乗った今日の昼食が具なしインスタントラーメン半分ずつなところを見てもわかるように…だいぶ厳しい。コタツを運よく知人に借りられたのは、この冬三本の指に入る幸運だったくらいだ。
幼少期から、使用人として育てられていた僕はまだいい。問題は、お坊ちゃんとして褒めそやされて育ってきた紅貴だ。僕の手を取って一緒に逃げてくれた相手だけれど、時折、坊ちゃん気質が顔を出す。…今のように。
「今日は十二月二十四日、クリスマスイブじゃないか。…なのに、この部屋にはツリーもイルミネーションも、ついでに言えば靴下を下げるイミテーションの暖炉もない。」
ツリーは百歩譲って目を瞑るとして、ぶっちゃけどこのご家庭にもイルミネーションやイミテーションの暖炉はないんですよ、と言うのは容易い。でも、ただでさえ温室育ちの紅貴の心は脆い。そこに僕との関係のせいで念入りにその心がヤスリにかけられ、今はちょっと話が噛み合わなかっただけで威嚇する猫みたいな目つきをするようになった。これは元執事兼現同居人として、何とかしてやらねばならない。
「…ではご質問です、紅貴様。イルミネーションを飾る電気代はどこから出しますか。」
ぐ、と言葉に詰まる紅貴。…申し訳ないが、追い打ちをかける。
「ついでに、イミテーションの暖炉を飾る空間は、この部屋のどこを指定なさいますか、紅貴様。」
「…うう。」
紅貴は一声唸ると、ばったりとコタツに顔を伏せてしまった。…仕方ない。これが現実である。
「でもさぁ…。」
紅貴はもじもじしつつ、本音を吐き出す。
「ツリーぐらい、いいじゃん。なあ、頼むよ。小さいのでいいんだ。せめて、この部屋の半分くらいの…。」
「紅貴様、経費の無駄です。」
イメージ的には五寸釘くらいの頑丈そうなもので、容赦なく釘を刺すように断っておく。
午後八時。夕食が終わり、皿洗いが終わった僕が部屋に顔を出すと、紅貴はちょうどコタツの上に顎を乗せて、ぼんやりとしていた。
紅貴がツリーを見たいとワガママを言うのも、無理はない。生活費を捻出するため、家計は削り取れるところはざっぱりと削っている。…つまり、生きていくのに不必要な娯楽がこの部屋には圧倒的に足りないのだ。筆頭となるテレビは、もちろんない。紅貴には携帯だって持たせられてはいない。せめて、ラジオくらい買ってあげたいものだ。
「…紅貴。」
僕が名前を呼ぶと、紅貴はバッと上半身を持ち上げ、なに、と何でもない表情をする。さっきまでの暗い表情を、僕に見せまいとするかの如く。
「…お昼、ツリーが見たいって言っていたよね。」
僕が言うと、彼は照れくさそうに笑ってみせた。
「あ、ああ、アレ??…ごめん、気にしていた??別にいいよ、オレは。漆が、オレと一緒にいてくれたなら、何もいらないんだ。」
何でもない風を装う恋人に胸が痛む。いつだって彼は、自分の気持ちを抑圧されて生きてきたのだ。
「違うんだ。」
ほら、と僕は昼過ぎに買ってきた購入物をコタツの上に並べていく。手乗りのツリー、綺麗なスノードーム。電池でキラキラ光る、小さな電飾。わぁっ、と紅貴が心から楽しそうに笑う。
「どうしたんだ、これ。…でも、こんなにたくさん。お金が…。」
「近頃の百円ショップは、色んなものを置いているんです。」
そこまでしませんよ、と微笑むと、恋人は大きく頷いてみせた。
早速スノードームを手にとると、傾けて、子供みたいに目をキラキラと輝かせる。
ほら、と僕は紅貴にサンタの帽子とトナカイの角がついたカチューシャを差し出す。
「これ、どっちがいいですか??」
紅貴はう~んと唸りながら熟考した後で、トナカイの角を手にとった。
「…トナカイがいい。本当は、二人ともサンタがいいんだけど。せっかくのプレゼントに文句を言ったら罰が当たりそうだ。」
「どうして、二人ともサンタなんですか??」
だって、と紅貴が明るい表情で話し出す。
「オレもお前も、互いに人生を分かち合っている。与えて、受け取り続けている。だから、オレにとって、オレ達はどっちもサンタなんだ。お前はもう従者(トナカイ)じゃないしな。」
なるほど、と僕は頷きを繰り返す。
「じゃあ、ほら。」
差し出したのは、二つ目のサンタの帽子だった。
「…なんで。」
驚いている紅貴に、元執事は心からの微笑みを向けた。
「何年、紅貴のそばにいたと思っているんですか。あなたのワガママの一つや二つ、対処出来なければ恋人とは言えないのでは??」
紅貴と目が合う。どちらともなく、噴き出して、笑い合う。
こんなささやかな日々が、一秒でも長く、続けばいいと強く強く願った。
〈君が笑ってくれるなら おしまい〉
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