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拾 漆
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お会計を済ませ上がらない足を必死に動かしながら
自分の家に向かった
家は団地で色々な人達が日々暮らしている
純白とは程遠い汚れきった建物が周りに何棟も建っていて
子供の声も赤子の声もお母さんの声もお父さんの声も色んな声が建物に反響してこだまする
俺はそこが大嫌いだった
12歳の時まで大好きだった犬の''こた''の檻で暮らしていた
大きくもない毛布もない寒い所で俺は生かされていた
自我なんてものは何もなかった
何がおかしいのかさえもその時の俺には分からなかった
こたと一緒に1日に1回しか出てこないご飯を食べて必死に空腹に耐えていた
そんな生活だったからだろうか
こたは早くに死んだ
残された俺も12歳の時死の瀬戸際まで来ていた
至る所に病気があったらしい
もう助からないくらい
それくらい絶望的だった
両親は罪を誤魔化す為に必死に献身的な親を演じた
檻には天井がついていてちゃんと両親の顔を見たことがなかったから
その時初めて両親が目を見てくれたことに感動した
入院中は''初めて''が多かった
まともなご飯
まともな寝床
まともな人間
まともな生活
そのまともが俺には違和感しかなかった
そして反対にあの時の俺には''初めて''が多すぎて一生懸命帰りたいと訴えた記憶がある
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