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「……父さん」
ホテルのロビーへ出たところで、七生は離れて歩いていた父親を呼び止めた。
「なんだ。お前もこの縁談を拒否するのか」
「……そんなんじゃないよ」
違うよ、と七生は軽く唇を噛んで堪えた。表情を強張らせている父親に対して何かを言うのは、七生にとってとても難易度が高い。
「……俺は、この話受けても良いよ」
それで、オメガとしての自分が認められるなら。
呟いた七生に、父親はふん、と息を吐く。それが当たり前だと言わんばかりの態度に、七生は怯んでしまいそうになったけれど、父親は「向こうの家には私から話しておく」とだけ言い、そそくさとホテルを出て行った。
今までに味わったことのない緊張の糸が切れて、思わず膝から崩れ落ちる。ふぅ、と息を吐いたところで、先程七生がいた部屋から、怒声が聞こえてきた。
「俺は誰とも結婚なんかしねえよ! 無理矢理当主にさせられた挙句、結婚相手まで親父に決められんのかよ!」
声の主は、城島太史だ。
吠えている彼とは対照的に、城島の父親は冷静に城島を見つめている。その表情はもう、この展開には慣れているといった様子だ。
「さっきも言っただろう。相手はイギリスでも王族と繋がれるほどの家なんだ。お前がこれから家を継ぐなら、その縁はあった方が良いだろう」
会社のためにも———と言った時、何かが切れたように城島は怒鳴った。
「だから、それが意味分かんねえんだよ! 結局俺は親父に従うしかねえんだろ? やりたきゃ他の兄弟にでも継がせりゃ良かったじゃねえか!」
俺にはまだやりたいことがあったのに———。
それはどこか、泣きそうな声でもあった。
悲痛な物言いに見えて、七生は胸がぎゅっと締め付けられた。立場は違えど、城島も七生と似ているのだ。
———互いに、一族と企業の繁栄のために、婚姻を決められた者同士。
けれど、七生はすでに腹を括っている。自分がどうなっても良いと、結局はアルファの家に生まれた自分の立場などたかが知れていた。
(……あの人は、違うみたいだけど……)
もし、向こうから拒絶されてしまったら。
七生はやり場のない自分の気持ちに、蓋をするしかなかった。
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