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乱暴に自室のドアを開けると、使用人は珍しく席を外しているようだった。七生はソファに置かれた鞄からピローケースを取り出すと、急いでそこに入っている赤色のカプセルを一錠嚥下した。
喉には異物が通った感覚がする。それを押し込もうと水を飲むけれど、不快感は消えなかった。
———走ってきたからか、心臓がどくどくと脈打っている。身体も熱い。これは走ったからなのか、それとも、発情期の症状なのかが疑わしかった。
(これ……治まるかな。早く治まってくれないと……)
発情であれば、匂いを消さなければアルファが寄り付く可能性がある。滞在中のホテルとなれば、イギリスの家とは違い、そこは危険に満ちているだろう。
薬を服用し始めて三年、通常は床に伏せてやり過ごすのが一般的な対策なのに対し、七生は、父親や兄弟が匂いに当てられないようにと薬を飲み始めた。けれどそれは、発情を無理矢理に抑え込む性質があり、副作用も極めて危険なものだった。
「はぁ、こんなしんどいの、久しぶり……」
そう呟いて、ソファに横になる。じんわりと腹の奥が熱かったために、逃げてきて正解だったとほっとした。
———これは発情期だ。
(あのまま少しでも長く一緒にいたら、城島さんが当てられてたかも知れない……)
アルファにとって、オメガのフェロモンはヒートを誘発させる危険があるために、オメガが発情してしまった際は、アルファは接触してはいけない。
———添い遂げる相手以外なら尚更だ。
それに、七生の発情期は薬の服用のせいで突発的になってしまっている。
つまりは、“薬を飲まないといつ発情期がやってくるのか分からない”。
それはとても、七生にとってリスキーなことになっていた。
薬が効く間に部屋を換気して、自身の匂いが充満しないよう努める。だんだんと身体が楽になっていくのと反比例するように、なんだか胸のあたりがもやもやとしたけれど、今は気付かないふりをした。
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