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はじまり──s
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認めて欲しかった。ただ誰かに必要とされたかった。
「君じゃなきゃダメだ」そう言われたかった。
ウリを始めて数年がたつ。一度きりの客の相手も数えきれないほどしてきたが、やっぱり俺目当ての客には満たされた。
満たされて仕事を終えた日は気分が良かった。
でも、店の外にいる俺は誰からも必要とされないその辺の石ころと同じ。
俺目当ての客だって大半は妻子持ちだ。独身の客にだってどうせ大切な人がいて、そいつの身が危険に曝されたなら俺なんて放ってどこかへ行ってしまうだろう。誰かの特別な存在に俺はなれない。
哀れだった。逃げたくなった。
生きているなんてとても言えない、ただ死んでないだけの日々から。
このまま指名が入らなければ、あと20分で俺のミクロの存在価値すら消えてなくなる上がりの時間がやってくる。
そこで終わり。何もかもから解放されよう。
明日以降予約が入っている客には悪いが、今夜を最期にすると決めていた。0時ちょうどに窓から見える展望台から飛ぶんだ。
生きたいと願う人こそが先に旅立ち悲しまれるこの世の中で、逝きたいと願う俺みたいな石ころは勇気を出すしかない。
今から一つ、夜道の明かりとして一つ、そして街の景色を見ながら最後の一つを味わうつもりで残したたった3本の貴重な煙草に手を伸ばした。
これが終焉へのカウントダウン。はじまりの 3 に火が灯る。
部屋の窓を開ければ、心地よい夜風に包まれた。展望台から目を背け、舞い落ちる灰の行き先を追ったその時だ。ふと店の前に立つ男と視線が交わる。
慌てて窓から顔を引っ込めたが遅かったようで、予想通りすぐにお呼びがかかった。
最後に深く深く煙を飲み込み、陶器の灰皿へまだ長い筒をぶっきらぼうに擦り付ける。
(あーあ、ついてない)
最も美しい時刻に死に逝く事も出来なくなった。
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