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ティティー
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教授との旅行から帰ってくると、そこにクリスの姿はなく、小さな紙切れ一つで突然の別れを告げられた。
拾った子猫はいつの間にか、還らない旅に出てしまった。
拾ったのはワタシ。
捨てられたのもワタシ。
所詮は野良猫だったということ。
さて、一緒に研究してきた実験を元に論文を書き上げる予定だったけれど…
ほぼ、共同作業でやってきたけれど、
こうなっては、一人で発表するしかない。
本当は連名で発表したかったが、表に出ることを嫌がる彼の許可なしに、それをすることは出来ない。どちらかといえば、この研究を仕上げたのは、自分ではなく、彼の功績の方が大きいのだ。
『ごめんね。子猫ちゃん。』
何もない空間に告げてしまう。
なんでも、すぐに吸収して、思い通りに動いてくれる貴重な存在だった。
彼のお母さんが心中事件を起こしたのは新聞で見ていたけれど…
まさか、この国を離れてしまうとは…
挫折を知らない天才が、どこで挫折をするのやら。
それとも、この事件で挫折を知っただろうか?
それを見届けたい気持ちはあったけれど…
次はどの分野で、彼は名を馳せてくれるのか…ここで物理とは縁を切るであろうことは彼の性格上、予測できた。
計算では結果、結論を出せないものを見つけてしまったのだから。
何らかの分野で、世界的に名を馳せてくれるであろう
愛弟子の晴れ舞台を見たい。
その時には、仕事を休んででも見に行こうかな…と思う。
こんな夜は早々に寝てしまおう。彼がいなくなってから、ワインを飲むようになった。
寂しくて、飲まずにいられない。
そして酔って、独り言を呟く。
また、一人になってしまった。
一人の部屋が、これほど寂しいものだとは…
『今度は幸せになれよ?』
服をすべて脱ぎ捨てて、彼の匂いの染み付いたベッドへ
滑り込んだ。もし彼が帰ってきたら、
またそのまま1晩説教されそうな行為だ。
けれど、会いたいその人は
そのドアを開けてくれることは無かった。
クリスとの研究内容の論文を発表したのは、
彼が居なくなってからすぐのことだった。
発表したからと言って、彼は権利を主張してくるような相手ではない。
それくらいで連絡すらしてくる相手ではないことは、
よくわかっている。
そんな人物であれば、早々に連絡をしてくるはずだが、
なかなか彼は連絡をしてこない。
落ち着いたら連絡をする、と言いながら、
連絡をしてこない野良猫は、どこで何をしているのか、
さっぱりわからなかった。
本当は死んでいるのではなかろうか?
そう思っても仕方ないほど。
なんだか、彼の作った食事を久々に食べたいな、
なんて思う。
『そう言えば、童貞をいきなり喪失させた時は
めちゃくちゃ怒られたわね〜。』
一人、クスクス笑ってしまう。
あれだけ気持ちよさそうにしていたくせに。
出すもの出したってのに、一晩中説教されたっけ。
『もう一度、相手してくれないかしら?』
急に一人になると独り言が増える。
セックスの相手に困っているわけじゃないけれど、
あれだけ拒絶されたこともない。
『そこが面白いのよ。』
もう一人の自分が言う。
早く戻って来て欲しい。
言い寄ってくる男なんてつまらない。
あの子は楽しい。だから居なくなると寂しいのよ。
半月も一人になると寂しさが募る。
身体の関係なんてなくたっていい。
そばにいて欲しい、そんな子。
このベッドで寝顔を見せてくれるだけで安心した。
ワタシたちに言葉なんて必要ない。
夜の暗闇に独りぼっちはイヤだ。
寂しい眸をしたあの子を拾った時もこんな夜だった。
同じ匂いを感じた。本物の愛に飢えた、
親の愛情を知らない愛情を欲しがっていた子供。
自分も同じだったから、痛いほどわかる。
親に殺されかけたとき、彼は愛を訴えたのだろうか?
その母親は何を告げたのだろうか?
その愛に応えたのなら、なんてひどい結末なのだろう。
抱きしめて、その傷を癒してあげたい。
『…少し、私も変わるべきなのかな…』
そう呟きながら眠りの淵に落ちた。
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