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preparations 5
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「な~にが欲求不満だ。毎晩ひっかえとっかえしてるくせに。いつか、しっぺ返しを食らうぞ」
電話切った直後、背後からヴァルターが呆れ声で言う。アルノルドは手元の五線譜に楽譜を書き込みながら、悪びれる様子もなく
「別に僕が呼んでるわけじゃない。勝手に呼び出されるから、部屋に行くだけだよ。そうしたら、準備万端状態で待ってて、挿入してくれってお願いされるから願いを叶えてやってただけだ。僕が全身全霊をかけて愛してあげるのはクリスだけだ。でも、これが最後だって伝えてくるよ?
ただ行くだけじゃなくて身辺整理は兼ねてるつもりだけどね。それに、やつらはただの処理道具だ。それでもいいって言うから相手をしてたまでだし。クリスが僕の元に来たらせっかくの一緒の時間に部屋から出るつもりはないからね。ヴァルターも好きなのを選んで抱けばいいだろ。付け込むにはもって来いのシチュエーションだろ?」
そう言いながらも何かイライラとしていることを疑問に思いつつも、口から出る言葉は詰(なじ)るようなセリフだ
「本当に最低だな。ご相伴に預かるのは嬉しいが、相手がオレをパートナーとして選ぶかは、別問題だろう?おまえほど、ハードじゃないもんでな。もっと優しくしたいんだけど、おまえさんのおかげでドMが多くて、困ったもんだ。どうせなら、まっさらなクリスが欲しいくらいだよ」
アルノルドが五線譜に滑らせていた指が止まる。振り返りもせずに譜面に目を落としたまま
「それだけは出来ない相談だ。クリスは絶対にどんなことがあろうと譲れないよ。どうして、みんなクリスを欲しがるんだろうね。『萩ノ宮家』に潜入させていた『マキナ』ですら、彼にベタ惚れだ。天性の誑しだな。本人に自覚がないのが、とにかく厄介だ。」
「おまえがそれを言うのか?おまえだって、充分に天性の誑しじゃねぇか。しかもクリスと同じく男女問わずのな。でもあの『マキナ』を動かしたってマジか……すげぇな。
おまえの場合自覚がある分、さらに厄介だと思うがな。
おまえらが組んだら、観客動員数は、無敵になりそうだよ。てか、クリスのSSはどうすんだ?」
「候補は決まってる。今、親父と交渉中。まだ、クリスはドイツ語が話せないから、英語とドイツ語と両方出来て、イタリア語も出来る、元音楽経験者がいるんだ。
まぁ、腕もたつらしいから、当面は通訳も兼ねてもらう予定だ。本当なら僕が付きっきりになりたいけど、そういうわけにもいかなくなるだろうからね。
それに何故か、今回に限って親父までクリスに会いたいとかほざいてやがる。どうなってんだよ……」
イライラの原因が目の前を通り過ぎていった。ボスがクリスに興味を持つ……?とは。極度の女好きで、インキュバスと言われる所以もそこにあるが、精力も強い、愛人の数も多い、そして子供の人数も多ければ孫の人数まで含めたら大ファミリーだ。セックス依存症と言ってしまえば簡単なのだろうが、その血が濃く出ている子供たちも相手の若さと美貌を奪って生きてるような人種だ。
それを吐き出すと、また楽譜に音符を書き込む。音も確認せず、オーケストラ譜のスコアをスラスラと書き込んでいける才能は、まさに天才的だ。ヴァルターは楽譜は読めないが、1枚の譜面にメインメロディーの弦から、その音をサポートする中音、低音と楽器別に書き込んでいく。
この作業だけなら、別にアルノルドを日本に行かせることは充分可能なのだが、まだ、ドイツとオーストリア、ロシアでのオーケストラとの音あわせが残っている。どの国にも、愛人がいる、というこの男の身辺整理がどこまで出来るのか、お手並み拝見、というのがヴァルターの見解だ。
どうしたって、その国に行けば、そのお相手からのお誘いはかかるだろう。そして、捨てられた相手は選ばれた相手に相当な嫉妬をしてくるだろうし、なにかを仕掛けてくるかもしれない。天然誑しの2人のプライベートを1人で賄うのは、どうしたって無理だ。
新しいSSがどんな人物で、ヴァルターとも気が合うかどうかもわからないが、アルノルドの人選であるのなら、間違いはないだろう。ただ、こっち側の人間でタチだった場合、SSとしての役目とクリスとは絶対に恋愛関係には発展しない「その他大勢」の一人になってしまうのだが。
そういうヴァルター自身もその一人だ。
あの綺麗な『お姫様』を手に出来るのは、この目の前の選ばれた『王子様』だけなのだ。
最初に見た時と、そこから3週間経過した頃では、彼の纏う雰囲気は明らかに変わっていた。どんな風に愛されていたのかは知らないが、傍にいるだけで勃起してしまいそうな色気を身に纏い、あのアルノルドが、壊れ物でも扱うように、エスコートし、誰かを気遣っている姿すら、長年付き合ってきたヴァルターでも見たことがないほどだ。
気恥ずかしそうに、遠慮がちにアルノルドにエスコートをされてる姿や、頼まれて買い揃えた服も、ラフなスタイルでも、スーツでも、何でも着こなしてしまう。
ダークカラーの服は、首から上の色をさらに鮮やかに際立たせていた。コンクールの時には、調査で離れなければならなかったが、それでもステージの上でピアノを弾く姿は、充分にインパクトを残せる色合いは美しいと感じた。
少し長めの髪は角度が変わるたびにプラチナのように輝き、金色になり、オレンジになり、カラフルに輝いていた。音楽家としての興味を惹かれただけだと思っていた。
まさか、あのアルノルドが本気になる相手を見つけてしまうとは、予想外だった。
ただでさえ、数年前に実兄を殺されていて、その犯人捜しに躍起になっているのに、自分から弱みを作るとは思えなかった。アルノルドの特定の人になるとはそういうことだ
兄弟が多いと言えど、アルノルドはそれなりの規模のイタリアマフィアのボスの血を引いている。本人は後継者争いには興味がないだけで、他の兄弟たちはそうではない。
アルノルドに近づくというのは、ある意味、命を狙われる危険が伴うのだ。その為に各兄弟たちとそのパートナーにはSSをつけているのだ。
ソファに座り、そんなことを考えていると、アルノルドの部屋の電話が鳴る。
「…………ハンスからだけど、どうするんだ?準備万端って声だぜ?」
ため息をつきながら、アルノルドが立ち上がると、
「これが最後だと告げてくるよ。おまえは気に入ってたんだっけ?」
「俺には荷が重いかな」
「わかった。とりあえず気分転換してくるとしよう。」
こうやって、思う相手がいるのに、別の男のところに行ってくるのだ。相手も躰目的だから、命を狙われる心配はないから、ホテルのスイートルームでアルノルドが戻るのを待つ。別れ話をしたからと言って返り討ちにされてくるような体力も残しては来ない。
SSである自分はともかく、アルノルドはクリス以外、自分の宿泊する部屋に入れようとはしない。自分のベッドの上で抱くのは、後にも先にもクリスのみだ。
確かに、いつ、誰に命を狙われるかわからない状況で、一番無防備になる時間、一番信頼出来る人間しか傍に置かない、というのはわかる。楽団の人間であっても、他国の愛人でも自宅や、ホテルの自室に呼んだことは一度もない。
アルノルドはキスも愛撫もしない。呼び出した当人にすぐに挿入できるように準備をさせ、欲情してる相手に何の反応も示していない自身を勃たせるよう、自慰をさせながら、フェラチオをさせて勃起をしたら、相手にゴムまでつけさせて、そこでやっと相手はご褒美をもらえるのだと、何人からも証言が出ている。
アルノルドが自分から誘って自室に連れ込んだのは、後にも先にもクリス一人だ。しかも、部屋に連れ込んだ途端に脅し、媚薬を使った挙句、丁寧に躰中に愛撫を施し、気絶するほど何度も抱き潰した。それこそ、翌日は何もせずだったようだが、離さないように抱きかかえて眠った。
ベッドルームに入ったアルノルドは電話には出ない。何かの時の為に待機していた。SS用のベッドルームもついてる部屋だ。あのスイートルームのソファやベッドで、何日もクリスが喘ぐ声を聞かされた。声の加減で大体は何をしてるのか、わかるが、他の人間にはしないような丁寧な愛撫を繰り返し、あの細い肢体を仰け反らせ、何度も何度も絶頂を迎える瞬間まで、手に取るようにわかってしまうほどだった。アルノルドの執着がこれほどまでとは、と逆に驚かされたくらいだった。
そこまでアルノルドを夢中にした男はいない。
ヴァルターの興味はそこにもあった。アルノルドは1時間もせずに帰ってくるだろう。相手を捨ててくるにもしても、尻拭いはこちらに回ってくる。それを考えると、今から頭が痛くなりそうだった。
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