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告白 ~遅すぎる青春~(1)
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坂上諒太(さかがみりょうた)、二十四歳・高校教師。根っからのゲイセクシャル。
好みのタイプはとにかく年上。ヒゲ面でガタイがいい男――いわゆる《ゲイにモテる容姿》とでも言ったらいいだろうか。
男同士の恋愛なんて所詮は《ヤリ目》の関係だ。どのような相手とも長く続いた試しがなく、その程度のものだと割り切っていた。
――ただ、俺は今、これまでにない恋をしている。
相手は教え子である、橘大地(たちばなだいち)。
長身で利発な顔立ちをしており、短く切りそろえられた黒髪にも清潔感がある。目立ちこそしないが、控えめに言ってカッコいい。
一見クールな印象なものの、新米教師である俺に優しい声をかけてくれて、いつもあたたかく見守ってくれて。だからつい、心が揺れてしまったのだ。
今さら純情ぶるつもりもないし、愛だの恋だのはもういいと思っていた。しかも、相手は生徒でノンケときた――まさに最悪の相手。体格がいいのは好みとするところだが、好みのタイプでもないのに。
しかし、こんなにも甘ったるい感覚は何年ぶりかもわからなかった。
まあ想いを寄せるくらいなら、まだ許されるだろう――などと思っていたのだけれど、
「先生、俺のこと好きでしょ?」
「なっ!?」
密かに寄せていた想いが本人にバレてしまったのは、つい一週間前。補習として追試をしていたときのことだった。橘は二人きりになるまで待っていて、唐突にそんなことを言いだしてきたのだ。
真剣な表情で告げられ、俺は絶句した。すぐに否定しなくてはと思ったものの、言葉がうまく出てこず、ただ赤面するしかない。
「ほら、赤くなった。いつも俺のことチラチラ見てくるし、そうかなあとは思ってたんすよね」
(う、うそ……)
愕然とする。言われてみれば思い当たる節はあるかもしれない――けれど、完全に無意識だった。
こんなの、さすがにわかりやすすぎる。思わず頭を抱えたが、その手を橘が掴んで強引に引き剥がした。
それから顔を覗き込むようにして、真っ直ぐに見つめられる。視線を逸らすことも許されないような眼差しに射貫かれ、心臓がどくんと跳ねた。
「いや、その……橘のことは確かに好きだけど、別に恋愛対象とかではなくてっ」
「え、もしかして自覚ないんですか。それとも俺を試そうとしてるんすか」
焦る俺に対し、橘は冷静に切り返してくる。
彼は何を考えているのだろう。その瞳からは感情を読み取ることができない。
「……ごめん」
だから、俺はただ謝った。
ああ、終わりだ。引導を渡すなら早くしてくれ――そう思ったのも束の間、
「どうして? 俺も先生のこと好きですよ」
橘がさらりと告げ、今度こそ耳を疑った。
言っている意味がわからずに目を丸くしていると、橘はさらに言葉を加える。
「俺、ゲイとかそういうの全然わかんねっすけど……でも多分、先生なら余裕でキスとかセックスできますよ」
「はああっ!?」
あまりに明け透けな物言いに、俺は声を上げた。
けれど橘は動じる様子もなく、平然としている。ますます意味がわからない。
「な、ななっ……君、自分が何言ってるかわかってんの? 普通は気持ち悪い、ってなるだろ!? からかってるつもりならっ」
「からかってなんかないっすよ」
「……っ」
橘がぐっと距離を詰めてきた。
間近に迫った端正な顔立ちに胸が高鳴る。反射的に身を捩ったが、がっしりと肩を押さえつけられて動けなくなってしまった。
そうして再び見下ろされて、
「先生、俺と付き合ってください」
告げられた瞬間、体の熱が一気に上昇するのを感じた。ドクンドクンと脈打つ鼓動は痛いくらいで、呼吸すら忘れてしまいそうになる。
しかし、だからといって、ここで流されるわけにもいかない。どうにかこうにか理性を奮い立たせ、ゆっくりと口を開いた。
「だっ、駄目です」
「なぜ敬語?」
「うううるさい! とにかく、駄目なものは駄目っ!」
必死に拒否すると、橘は不満そうに眉根を寄せる。
「俺たち、両思いなんすよね?」
「こらこら、話を進めようとするなっ。どう考えてもあり得ないし、それに立場だって――何かあったら責任取らされるの俺なんだぞ?」
「何か、なんてあるはずがないでしょ。女子みたいに妊娠するワケじゃないし。そもそも、はたから見たらそんなふうに思われることもないだろうし」
「あっ、なーるほど……っておい!」
ああ言えばこう言う――橘の言葉にムッとしながらも、相変わらず肩は掴まれたままだし、距離は近いしで落ち着かない。
そんなこちらの様子をじっと見つめながら、なおも橘は追い打ちをかけてくる。
「『駄目』って言われても、全然説得力ないんすけど」
そう呟いたかと思うと、橘の顔がさらに近づいてきた。鼻先が触れそうな距離まで迫られ、思わず息を呑む。
「ちょっ、橘」
「駄目?」
「だめ……っ」
「本当に?」
「だ、め……」
小さな声で告げるも、言葉がそこで途切れる。
気がついたときには、橘の薄い唇が重なっていた。最初は軽く重ね合わせ、一度離してから、角度を変えて今度は押し当ててくる。
柔らかくて、温かい。触れ合うだけのキスなのに、頭の芯まで痺れるほどの快感を覚えてしまう。
「好きです、先生」
「……っ、ん」
先生、と呼ばれてハッとしたけれど、唇を舌先で舐められれば体の力が抜け落ち、されるがままになってしまう。
「ん、橘っ……」
そのまま何度も優しく撫でられ、やがて唇を食まれる。ちゅっちゅっと音を立てて吸いつかれるたびに、腰の奥が疼いて止まらない。次第に頭がぼうっとしてくるのを感じた。
(あ……ヤバい、気持ちいい)
男として気持ちいいことは好きだし、もともと快感に弱いところがあるのは自覚している。これまでも何人もの相手と体を重ねてきたし、正直なところ誰とでも寝られた。が、今回ばかりは事情が違う。
「先生?」
「やっぱ駄目だよ、橘」
やっとのことで唇を引き離し、掠れた声で言う。
橘は少しだけ身を引いてくれたものの、まだ納得していないような顔をしていた。それを見て、俺は言葉を続ける。
「一旦、頭冷やせよ。橘のそれは、本当に恋愛感情なのかよく考えてほしい」
「……先生は、勘違いだと言いたいんですか」
言いながらも、橘の表情には迷いが見て取れた。高校生の恋愛観なんてそんなものだろう――そう思った瞬間、胸がちくりと痛んで――、苦笑した。
「君はゲイじゃないんだし、そんなふうに一時の感情で流されてほしくない。俺だって、好きだから君とどうこうなりたいってワケじゃないんだから。……わかったなら、今日はもうこの話はナシな」
「――……」
まだ自分の心情が整理できていないのだろう。橘は何か言いかけたものの、結局は何も言わずに顔を伏せたのだった。
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