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やっぱり女は信用できない…
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なんでこの街に戻って来たんだろう。
逸郎は静かな住宅街に立ち止まり、辺りを見渡す。
以前は下町の雰囲気を残していたこの街も、真新しい住宅が立ち並び、全く知らない街の様だった。
事実、ここに来るまで、逸郎はそこが以前暮らした街だと気付きさえしなかったのだ。
大学二回生になった時に、なんとなく割が良さそうだと思い、家庭教師のアルバイトを始めた。
最初に派遣されたのは高校二年生の女の子のところだったが、契約期間は二ヶ月に満たなかった。
一見、異性とは関わり合いのない様なおとなしい見た目をしていたが、やはり多感なお年頃に例外は無いのだろう。
週二回ペースで、丁度十回目の授業の時、彼女が突然顔を赤らめ俯いた。
「先生…私、今日下着つけていないんです」
その言葉を聞いた瞬間、逸郎は席を立ち、一階にいる母親の元へと向かった。
そして、理由は伏せ、これ以上続けられない旨を伝えたのだ。
当然親は激怒し、派遣会社へもクレームが入った。
それでも逸郎は、誰にも真実を告げず、ただ「お嬢さんに聞いてください」。と通す。
その言葉通り、彼女に理由を聞けば、嘘をつくのは言うまでもない。
逸郎に悪戯されたのだと言うとんでもない嘘を——
逸郎の毅然とした態度や、その年頃にありがちな奇行と親も勘付いたのか、少女の証言よりも周りは逸郎を信じてくれたのは幸いだった。
もし少女の話がまかり通れば、気軽に始めたアルバイトごときで、逸郎の人生は破滅する事になっていただろう。
—やっぱり女は信用出来ない…
逸郎は改めてそう思った。
派遣会社もなるべく同性同士がマッチする様に配慮してはいるが、理数系を教えられるのは男性の方が多く、交通の便なども考えて、異性の組み合わせになってしまうことはどうしても避けられない。
一応、頸にならずにすんだが、次も女に当たるならもう辞めてしまおうと思っていたくらいだ。
しかし、次の派遣先として提示されたのは、高校二年生の男子の元だったので、新しいバイトを探す面倒を考えれば、承諾するしかあるまい。
事前に彼の資料に目を通したが、写真を見ても住所を見ても、全くその事には気付けなかった。
当日、その街へと向かう途中もなにを思い出すこともなく、目的地へ向かい辺りを彷徨っている時もなんの懐かしさも湧いて来なかった。
それもそのはずだろう。
この街は逸郎にとって、最も記憶から追い出したい場所だったのだから。
時間に余裕もあったため、スマートフォンのナビゲーションアプリと駅からの最短ルートを照らし合わせながら歩いていると、ふと妙な違和感に襲われた。
画面から視線を上げて、街並みを見れば、その違和感がなんなのかすぐに気づく。
——俺はこの街を知っている
既に目の前まで来ていた目的地を見上げ 、戦慄にも似た感覚が逸郎の背中を走り抜けた。
——そして、俺はこの家を知っている
まさかと思い、資料を見直す。
やはり名前や住所はしっくり来ない。
だが、そこに添付されていた写真や、名前の片隅には見覚えがあった。
「ガチャスケだったのか…はは…」
思わず口から笑いが零れる。
坂上 英介(サカガミ エイスケ)
逸郎にとってそれは、暗い思い出しかないこの街で、唯一の温かな思い出だった。
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