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お前、何、急に甘えてんだよ?
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「イっちゃんはいつから気付いてたの?もしかして、俺だって知っててしてくれたの?」
二次方程式を投げ出して、英介は逸郎に興奮気味に詰め寄った。
興奮で見開かれていても、やはり眠そうな目のせいでイケメンと呼ぶには程遠いが、笑うと少し大きめな二本の前歯が覗くところなんかが愛らしい。
その特徴が某子供番組に出てくる万能恐竜の着ぐるみに似ているから、幼い頃の英介はそれを文字って「ガチャスケ」と呼ばれていたのだった。
「ガチャスケ…大きくなったな」
質問には答えず、逸郎は英介の頭を掌で優しく撫でた。
「ちょ、ガチャスケはやめてよ…」
その行為に対してか、言葉通り昔のあだ名が不満なのか英介が頬を紅く染めて不貞腐れる。
「じゃあ、なんて呼ぶ?今まで通り英介くん?」
少し意地悪く笑う逸郎を横目で見ながら、英介が「英介…でいいよ」と、不機嫌なフリで答えた。
その姿を見て、ああ、英介は変わらず純粋に育ったのだな…と逸郎は思い、ホッとすると同時に妬ましくなった。
頭に置いた手を咄嗟に引っ込めてしまったのは、何もその妬ましさからではない。
まるで別世界に居た自分が、この純粋な生き物に触れて良いのだろうかと言う後ろめたさが不意に湧いたからだった。
不自然に引かれた手を目で置いながら、英介は首を傾げた。
その様は、暖かい記憶の中にある幼い頃の英介そのものにも見えた。
「ほら、早く問題やれ」
唐突に泣きそうになるのを誤魔化す様に、逸郎は目線をノートに戻す。
英介も仕方なく視線を追ったが、唇はまだ不満そうに尖らせていた。
「だって…わかんないんだもん…」
「は?お前、何、急に甘えてんだよ?」
むくれる顔に思わず口元が綻び、その額を小突くつもりで持ち上げた逸郎の指先が寸でのところでハッと静止した。
目の少し高い辺りで迷う指先を、英介は猫じゃらしを注視する猫みたいな顔でジッと見つめながら、小さく口を開いた。
「…イッちゃん?なんかあったの?」
「ん?どう言うこと?」
と逸郎が返したのは、決してとぼけたかったからではない。
英介のその質問にドキリとすることは幾つもあるが、どの時期を指しているのかが純粋にわからなかった。
「んー…だって、突然引っ越しちゃったじゃん…」
あー、なんだその時の事か…と、逸郎はほっと胸を撫で下ろす。
「親の都合だよ」
言い慣れた言葉を口にして、逸郎はまたノートへと視線を戻した。
少し柔らかくなった表情は、いつの間にか退屈そうな顔に戻っていた。
そうすることで、それ以上詮索するなと伝えたつもりだったが、英介は気づかない振りを決め込んだ。
「でも、イッちゃんは一度も手紙くれなかった!俺、淋しかったんだよ」
逸郎が躊躇う壁を意図も簡単に超えて、胸に縋り付く英介を見下ろした時、逸郎の中で糸が一本切れた。
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