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おらぁー!誰だぁ!?英介を泣かせた奴ーー!!
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英介は不満だった。
折角の再会なのに、なんだか自分ばかりが喜んでいるようで
17歳にとっての、10年以上前の記憶となれば、遠い遠い事の様に思える。
正確には12年前。
英介がまだ小学校に上がる前の話だ。
「おらぁー!誰だぁ!?英介を泣かせた奴ーー!!」
そんな怒声と共にいつも逸郎は現れた。
そう言えば、あの頃、英介の事を“ガチャスケ”と呼んでなかったのは、大人と逸郎だけだった。
—泣き虫ガチャスケ
—お漏らしガチャスケ
特徴的なタレ目に小さな体、気弱な性格、付け加えてお漏らし癖が治らず、保育園のお昼寝の時間ですらオネショをしてしまう英介はいじめの格好の的になっており、毎日誰かに泣かされていた。
英介がグスグス泣いていると、必ずと言っていいほど逸郎が怒声と共に駆けつけてくれる。
今思えば、逸郎の怒鳴り声が聞こえると、きゃあきゃあ言いながら散って行くいじめっ子たちは、それが楽しくて英介をいじめてたのかも知れないが、そんなことは最早どうでもいい。
ソプラノリコーダーを振り回し、ランドセルを揺らしながら駆けてくる逸郎は、当時の英介のヒーローだった。
ある程度いじめっ子を追いかけ回し、戻って来た逸郎は、未だにグズる英介の頭を撫でてくれた。
泣けば、親も保育士も「男の子なんだから」「強くなれ」と苦笑を浮かべる中、逸郎だけが英介が泣くのを許してくれる。
泣き止むまで柔らかな笑みを浮かべながら、愛おしい物を愛でるみたいに優しくゆっくりと頭を撫でてくれる逸郎の事が英介は大好きだった。
英介の中では、当時流行りの、どの特撮やアニメヒーローよりも逸郎はカッコ良くて、キラキラ輝いて見えていた。
それが突然、なくなってしまった。
なんの予告もなく、逸郎は現れなくなった。
通常、ヒーローは世界の平和を見届けてからその姿を消す。
小学生に上がる少し前。
もちろん、英介の世界はちっとも平和になっていなかった。
それなのに、ヒーローは現れない。
裏切られたと感じた。
役目を放棄して逃げたヒーローを英介は恨んだ。
さすがに高校生にもなれば、何か事情があったのだろうと割り切るか、微笑ましい思い出程度になっているかと思いきや、未だに傷が癒えていない事に英介自身が驚いている。
「もう、無理…今日は無理…」
英介はシャープペンシルを投げ出した。
言われた通り数字を睨んでいても、頭に浮かぶのは、当時の思い出ばかり。
そして、再会を喜ぶ事もない逸郎の態度が、尚更逃げたヒーローのイメージを裏付けている様で虚しくて悲しかった。
「お前、何言って——英介?」
不貞腐れた英介の顔を覗き込む逸郎の表情は呆れから、驚きの色に変わる。
「英介…泣いてんの?」
「えっ?あれ?—あれ?」
慌てて涙を拭う英介の姿を見て、逸郎の糸がもう一本切れた。
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