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本名じゃないでしょ?*
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握った手はいつも冷たかった。
—ヒデ
そう呼ばれてたのはいつのことだろう。
なんて、思いに耽る程、昔の話じゃない。
3年も経って居ないのだから—
ごくごく最近の事だ。
なのに、思い出せない。
自分をそう呼んでいた人の名前を。
誰一人として、思い出せなかった。
声も思い出せない。
一人を除いて——
「あぁ…んっ……ヒデ、ヒデ…そこ…上……うえ、、んっ、突いて……」
「ルカ…む、無理……俺、もぅ……イクっ!!」
「やだ……ダメっ、も、少し…がんばっ……て」
ルカとのセックスには愛なんて物はなかった。
むしろ、愛なんて言葉を口にしただけで、大口を開けて笑ってしまう程に、単なる性処理でしかなかった。
いや——性処理ですらなかったかも知れない。
本当に生きているのかと言う、単なる生存確認。
しかもそれは、相手の事を確認するわけではなく、自分が生きているのかを確認する作業でしかなかった。
「あぁああああ…ぜっ……たい……イく…な……も、、すこし……だから……」
「なら……締める……な!!」
お互い、とことんエゴを丸出しにしながら交わる姿は、獣と呼ぶにも値しない下劣なものだった。
それでも、いつもほぼ同時に果てるのだから、相性はいいのだろう。
重なり合いながら、息を荒げ、整わない内にどちらともなく離れる。
そして、なんの確認もなく別々にシャワーを浴びて、下着を着ければ普通の顔をして向き合った。
キスはしない。
別にキスに特別な意味があるとは二人とも思っていなかった。
セックスとなれば、これでもかと言うくらい舌を絡めあい、唾液を混ぜ合わせる。
ただ、セックスでなければ、する必要もないし、したいとも思わないからしないのだ。
この関係をなんと呼べばいいのだろう。
セックスフレンドと呼ぶにもこそばゆい。
妙な話だが、セックスをしてなければフレンドだったのだろう。
「ねえ…ヒデ……なんでヒデなの?」
ルカがどうでも良さそうな声で聞いた。
「なにそれ?」
思わず吹き出しながら、顔を向ける。
「だって、本名じゃないでしょ?」
「んー、そんなこと言ったら、ルカなんて絶対違うでしょ?今時の子供ならわからないけど…」
「いや、俺は本名だよ」
「えっ?」
「俺、イタリアとのハーフなんだよね。実は…ま、向こうじゃありがちな聖人名ってやつ。聖人様に申し訳ないから、誰にも言ってないけど…」
確かにルカの顔は、一般的な日本人に比べて彫りが深く、肌も少し褐色気味だった。
テレビタレントなどにも、そのくらい目鼻立ちがハッキリした人はたくさんいるし、瞳が黒いと言うだけで、言われるまでは気付かなかったのだ。
言われれば、鼻筋や、恐らく日本人の平均よりもがっちりした骨格に、なんとなくそれが嘘ではないと思えた。
とんだ偏見ではあるが、ハーフと言われると、お坊ちゃんのイメージがある、それが何故こんな——と問いたい気持ちが顔に出ていたのか、小さな笑いで誤魔化される。
「ねえ、俺、ちゃんと言ったんだから、そろそろ、名前くらい教えてよ」
「逸郎———逸郎だよ………だせぇだろ?」
「全然。いい名前だ」
そう言うと、ルカは笑った。
絵画に描かれる聖人の様な笑顔で——
「—で、なんでヒデなの?」
それについて、逸郎は答える事が出来なかった。
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