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気にならないのか?
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時刻は19時を回っていた。
健一はほぼ強制的に逸郎を駅前の居酒屋チェーン店へ引っ張って行き、席に着くなりさっさと注文も済ませてしまった。
そこまでされれば、逸郎は抗う気さえ起きない。
生ビールが運ばれてきて、形式的にグラスを差し出した逸郎とは違い、健一は「再会に」と嬉しそうに言った。
小さな音を立ててグラスがぶつかった瞬間、逸郎の心臓が小さく跳ねる。
「んで、今なにしてんだよ?」
先手を打ったのは逸郎だった。
自分の話はしたくなかったし、先程から感じる説明出来ない焦燥感を誤魔化したかった。
「俺、専門学校行ってる」
「へぇ…なんの?」
「美容」
「は?健一が美容?あり得ないだろ?」
「いやいや、お前、俺のことなんも知らねえじゃん…」
健一の苦笑を見て、逸郎は「それもそうだな…」と、俯いた。
小、中、高の間、ほぼ関わらずに過ごして来たのだ。言葉通り、なにも知らないのと同義だろう。
健一の持ち前の明るさで、ついあの頃の延長と錯覚してしまった。
もしかすると、英介もこんな気持ちだったのかもしれないと、逸郎はふと思う。
ならば、やはり勘違いだと——
「で、イツローは?今、なにしてんの?」
ただひたすら健一の話を聞いて、この場をやりきろうと考えていた逸郎だったが、つい気を抜いてしまったらしい。
話の方向が自分へと向けられる。
ここで、妙な誤魔化しをしても、余計な詮索をされるだけだろう。
「ん…大学生。サボり過ぎて、留年しちゃって、今二回生だけどな…」
肝心な事は上手くぼかし、真実を告げると、健一は「へぇー」と、やたら関心した表情を浮かべた。
「良かったな。大学まで行かせて貰えて!俺、心配だったんだよ…」
「心配?」
「ん?いや、親に捨てられたって聞いてたから…」
「はっ!?」
「いやぁ、でも、大学まで行かせて貰えたって事は、それなりの所に引き取られたんだろ?良かったなぁ」
普通ならば躊躇う言葉を健一は、あまりにあっさり口にするものだから逸郎は絶句した。
それがいいことなのか悪いことなのか、誰にもわからない。
「おい。普通、捨てられたとか、引き取られたとか言っちゃダメだろ」
呆れた笑いを浮かべながら、注意はしたものの、逸郎は内心嬉しかった。
そのことを逸郎自身が後ろめたく思う事はないと、言われた様な気がするから——
「違うの?」
親に聞いただけだし——と全く気にする様子もなく、健一が首を傾げる。
そのことを注意したわけじゃ無いんだけど…とは思っても、これ以上は言っても無駄だろう。
逸郎は言葉を飲み込み、水滴だらけになったグラスを持ち上げた。
つられる様に健一もグラスを口へと運ぶ。
「いや——マジで心配だったんだよ…」
訝しげな表情の逸郎へ一度視線を移すと、健一は懐かしむ様に遠くを見つめた。
「イツローのこともだけど、ガチャも…」
「英介—?」
「……うん。英介の事、聞かないけど……気にならないのか?」
いつの間にか自分の方を見ていた健一の真っ直ぐな瞳に、逸郎の焦燥感の正体が微かに見えた。
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