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乱れた服を整えてベッドから起き上がる。もう少しで夜が明けそうな黄昏がカーテンの隙間から見えた。
気分は割と良かったのに、彼は咳払いをしてから低い声で言った。
「もう、会うのはやめにしよう。」
「は?…なんで急に? 」
「やっぱ、男同士じゃ未来がみえないよ。ほら世間体もあるし、この間縁談があった娘が結構良くてさ…」
途中から話が頭に入らなかった、意味は理解できるけど感情が置き去りのままことばが耳から耳に抜けていった。
「お前寝てる間に俺の連絡先消しておいたから、もう連絡してくんなよ。」
そう言い残してから彼は部屋を出た。
それは、一方的な別れだった。
彼に出会ったのは2年前、バーで一人で飲んでいたら隣の席に彼が座ってそれから意気投合した。ちゃんと告白して付き合ったとかそういうのではなかったけど、一緒に買い物をして食事をしてテーマパークで遊んだりらしいデートをたくさんした。体の相性も良かったし好きだとたくさん言ってくれた。
僕は育ちが悪くていつも不安定だったけど、彼はそれを許してくれたし受け入れてくれた。確かに彼はしっかりと愛のある家庭で育ったちゃんとした社会人だったけどそれでも「普通のふりをしているだけ、本当は自信がなくて、不安で、君と変わらないんだよ」と言って共感してくれたし慰めてくれた。
…僕は彼に本気だった。
帰る場所もない、頼れる人もいない、大した収入もない。このままじゃ夜の街に消えて、またぐちゃぐちゃの感情のまま体を売るくらいしかできない。気持ちも不安定だし、死にたくもなるけど医者にかかる金も気力もない。
以前もこんなことがあったとき助けてくれたのが彼だったのに。
もう、いよいよ死ぬしか方法がないのかもしれない。ふと携帯をいじったら楽な死に方を検索してしまいそう、そう思いながら帰りの駅であいたベンチに座り電光掲示板を見た。
行ったことのない地名への路線が表示されている。
いっそ死ぬだけなら最後の望みをかけて、あそこを目指してみるのはどうだろう…
僕は初めての列車に乗り込んだ。
ここから遠く遠くの郊外の広い大地に大きな亀裂のような谷がある。
それは太古の昔に悪魔が付けた大地の傷跡だなんて言われ、そして現在その場所は人生を捨てたような人々が集まる溜まり場になっている。通称ごみ溜めの街、ヴェッヂと呼ばれる。
…という、噂を聞いたことがある。
あくまで都市伝説レベルの噂、そんなもの本当にあるのかも知らなかった。
だけど、乗ってしまったからにはいくしかない。賭けのようだけど、言ってしまえば僕の人生だって賭けのような行き当たりばったりだったじゃないか。
不安と少しだけ彼のことを思い浮かべながら僕は知らない景色を眺め続けた。
列車は街を抜け、畑道を抜け、森を抜け、やがて建物がほとんど見えない干からびた土地についた。ここからは列車はなく、古びたバスに乗る。乾いた大地が続きバスは北へとひたすら進み、やがて止まった。
「あなた、ヴェッヂに行きたいんでしょ?」
僕しかいないバスで運転手がそう話しかける。
嘘をついてもしょうがないし僕は少し戸惑いながら「え…はい」と答えた。
バスを降り運転手の言う通りに進んだ。何もない道をひたすら歩き、だんだん勾配になってゆく下り道を進む。やがて岩場にたどりつき、そこにはぽっかりと暗い穴を向けた洞窟があった。
洞窟に入ると真っ暗だが小さな点々とした目印が道を示していた。そこを進んでゆくと少しづつ外の音が消えて行った。自分の存在さえ行方不明になるような闇の中をただただあるき続けた。
そして光が見えてくると洞窟は終わり岸壁に挟まれた道へと変貌した。大きな古びた門のような人工物がみえると確信した。
細くなった岩の道を抜けた先、大地に傷のようにできた裂け目に張り付く街並み。
ようこそ"ヴェッヂ"へ!
古びた看板を見上げた僕は表情も変えず歩いた。
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