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最後の鬼ごっこ⑦
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女生徒が手紙を渡したのか、礼を述べて階段を降りる音が聞こえる。鳴海さんが手紙を入念にみているのか紙擦れの音がした。
こちらに向かって歩いてくる足音。戻らなければ……。だが、動けない。鳴海さんがこちらを曲がってくる……この場を離れられない。
「うわぁぁ……て、渉!?」
壁に隠れるようにして立っていた俺に悲鳴を上げた。俺が幽霊にでもみえたのだろう。彼は怖がりだから。
化け物ではなく俺であるとわかったとたん。鳴海さんが胸をなでおろすが、どこかうろたえた様子にみえた。
「その、ごめんな、遅くなって!迎えに来たのか!?実は、先生が1200字の課題押し付けてきてさ。それで、その課題がけっこう」
「その手紙、貰ったの?」
何かをごまかそうとする彼に苛立って、先に切り出した。白い封筒にハートのシールが貼られている、安っぽい愛の手紙。俺が手紙を直視していることに気づいた鳴海さんが、何故かそれを背中に隠した。
作り笑いを俺に向けて、ごまかそうと必死に目線をそらす。作り笑いなんて初めてだ。
その行為と笑顔が俺の崖っぷちの理性を追い詰める。重なるように、星野さんと立川の姿が浮かんだ。じくじくと、火傷が痛むのだ……。
「その、これはさ、違くて……それより、渉さぁ」
「ねぇ、なんで手紙隠すの?」
「なんでって……?」
「さっき、そこで女の子から貰ってたよね?見てたよ、俺。なんで受取ったの?鳴海さんの好みのタイプだった?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ねぇ、はっきり答えて」
俺から視線をそらす鳴海さんを壁に押し付けて、逃げ場をなくす。正面から睨みつけながら、本音を吐き出した。抑えようとしても先ほどの指先から凍りつく出来事に、自重という防御は効き目を果たせそうにない。
鳴海さんはあの女が好きなの?鳴海さんは手紙をもらって嬉しい?鳴海さんは俺よりあの子といる方がいいの?ねぇ、鳴海さん鳴海さん鳴海さん……。あぁ、心が止まらない。
「答えてよ!」
全ての質問を終えて応えを求めるが、彼は今にも泣きそうな顔をしていた。作り笑いよりはマシだと考えて、自嘲する。
「渉……なんで?」
「なにが?」
「なんで……、なんでそんなこと聞くんだよ?お前には関係ないだろ?」
「え?」
「だって、そうだろ!俺が誰から手紙をもらおうが、お前に関係ないし、お前が気にすることでもないし。それなのに……渉、すごく怖い……なんでそんな泣きそうな顔して怒ってるんだよ……」
鳴海さんの目から、とうとう涙がこぼれおちる。
彼に友達と認識されてから、一度も泣かしたことはなかった。いつだって初めて会った時と同じように、笑ってほしくて努力したつもりなのに……どうして、あんたが泣くんだ。
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