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「……っ、おいし」
「だろ?」
「ふ〜! 陽ちゃんもこれでたこ焼きデビューだっ」
頬を火照らせてよろこぶ冴島。
胸の奥がズキズキと痛むのは、感受性が豊かすぎるのかもしれない。
「新谷、くん……宗谷くん、あり、がとう」
「陽ちゃんも名前でいいよ。こいつのことはバカ猿とかでもいいし!」
「しばくぞ、バカ猿」
「バカ猿はお前だろ!?」
「……じ、じゃあ……要くん、と、祐希くん」
「おう、俺も陽って呼ぶわ」
うんうん、と満足げに要がうなずく。
陽は少し唇をむすんでうれしさを隠しているようだった。
照れているのか、ほんのり赤い頬。
なんだこいつ、めちゃくちゃかわいいじゃねえか……
思わず俺まで赤くなりかけ、誤魔化すために無理やり水を豪快に飲み込んだ。
「はぁ〜っ、うまかった」
「……ごち、さま」
「んじゃあおれは帰りこっちだから、祐希は責任もって陽ちゃんを送ってやれよ〜」
「わーってるよ」
要と別れ、帰るぞと歩みを進める。
陽についてわかったのは、身長がおそらく170前後なこと、意外としゃべれること、なにかに怯えていること。
視線を感じて隣を見ればハッとしたように目をそらされた。
「ん、なに?」
「なん、でも」
「言えよ。なんも怒らないし」
「ピ……ピアス」
「あぁ、これ? うち一応アクセは派手すぎなきゃOKだしな」
「かっこ、いい」
「……」
なんだ、いまのドキって。
陽が俺のタイプの顔面をしているせいだ。
クソ……
「陽も開ける?」
「え……こ、こわい。おこら、れる」
「誰に」
「……」
「なぁ陽、言いたくないならいいんだけどお前、俺が怖い?」
「っ」
わかりやすく硬直した。
そりゃあ怖いか、茶髪にピアスでこんなチャラい見た目してんだから。
「実家ぐらし?」
「……親とじゃないけど、いっしょ住んでる」
「親、厳しいの」
「…………」
「無理しなくていい、変なこと聞いて悪かった」
「……お父、さん、すぐ怒る。おれ、できない子」
ああ、嫌な予感が当たってしまった。
「できなくないだろ。ノート写してやってたしすげー字きれいだし、陽は秀才だ」
「……わから、ない」
「あれも、断るのが怖いのか」
「なぐ、られるの……こわい」
「なるほどな」
本音を話してくれた。
こんなうれしいことはない。
「心配すんな。断って文句言うやついるなら俺がぶん殴るから」
「え」
「陽はもっと好きにしていい。俺は力もあるしどんな相手だろうと怖いとは思わない。だから俺に任せろよ」
「……でも、祐希くんが、傷つく」
「まさか。陽に嫌われたら傷つくだろうけど、それ以外ならべつにどうでもいい」
「おれ、が……? ううん、嫌い、ならない」
「はは、からかっただけだ。祐希でいい」
「……祐希」
「めっちゃ従順。家まで送るよ」
「あり、がと」
驚いたのは、陽の家が立派なお屋敷だったことだ。
門をくぐると庭園もあり唖然とした。
「おかえり、陽」
「ただ、いま。お父さん」
お父さん。
そう聞いて身構えたが、目の前にいるのは住職の格好をした優しげな男だ。
40から50代くらいか、目元もおだやかで想像とはちがっていた。
「友達かい?」
「こんにちは。陽を送りにきました、同級生の宗谷祐希です」
「はい、こんにちは。陽が人を連れてくるなんて、よほど気に入ったようだなぁ」
「え」
「……ゆーき、おかしある、お礼」
クイッと袖を引いてくる陽に、俺の理性が狂わされそうになる。
「遠慮なく上がっていって。陽、居間に案内してあげなさい」
「うん」
武家屋敷、っつーのか……
どこもかしこもすげー広い。
居間に案内され、長テーブルにお茶と和菓子が置かれる。
陽は隣のクッションにちょこんと腰かけた。
「陽、想像とちがいすぎたんだけど……あれがキレやすい父さん?」
「……ううん、あの人は、ちがうお父さん。おれを助けてくれた人」
「そういうこと」
複雑なんだな。
だからといってどうもしないが。
「落ちつく場所だな。庭園があるのすげえ」
「おれも好き、ここ」
「これ何味?」
「ぶどう味。これ、包みおれがつくった」
「は? すっげ、業者かと思った。手先器用だな」
「……えへへ」
「っ」
笑った。
……めちゃくちゃかわいい。
なんだこれ、目が見れねえ。
「陽、庭に咲いてるイチゴ、いくつか取っておいで」
「あ、うん」
立ち上がった陽がつまづきそうになっていて、見ていて飽きない。
なんだよ、あのかわいい生きものは……
「きみは、陽と付き合いが長いのかい?」
「いえ、3年になって初めて一緒になったんで……それまではお互い知らなくて」
「そうか、出会ったばかりなのに陽があんなに心を開くのは珍しい。きっと心やさしい人なのがわかったんだろうね」
「……優しくはないですよ、べつに」
「あの子は人を見抜くのが上手なんだ。危機管理能力がつよいのもあるんだけど、危険な人には無意識に厚い壁をつくってしまう」
「あいつ、昔からあんな感じですか」
「あんな?」
「大人しいっつーか、あんましゃべんなくて。なにを考えてるのかわからないときが」
「ああ……少し、複雑でね。私は遠い親戚なんだけど、両親からひどい虐待を受けていたところを引きとったんだ」
「虐待って……」
「こんなことを客人に言うべきではないのだけど。子どもにとって親はすべてだからね、人との距離の詰め方がよくわからないで育っているから、どうか見守ってあげてくれないかい」
「……」
俺になにができる。
なにをしたらいい。
ただ寄り添うしかできないのか。
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