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庭から戻ってきた陽は手にいちごの入ったカゴを持っていた。
「すげえ取ってきたな」
「これ、いっしょにたべる」
「まじ? いいの」
「うん……お礼」
「たくさんあるから、いくつか持って帰っていいよ」
「あざす」
陽の汚れた頬を指でぬぐう。
おっちょこちょいなんだよな。
「いっぱいとれた」
「うまそう。陽、口あけて」
「はむ」
「んー、うまい。ハムスターみたいになってんぞ」
「??」
「ははは、かわい」
「!」
陽が照れるのは見ていておもしろい。
だからついからかいたくなる。
ぽん、と頭をなでると途端に泣きそうな顔をした。
「うわ、どうしたんだよ」
「ううん、っ」
「頭さわんの嫌だった?」
「…………なでられたこと、なかった」
「……」
声がふるえていた。
陽の見てきたものは、どんな景色だったんだ。
ぐしゃぐしゃと髪をかき、陽を落ちつかせる。
虐待。
俺は陽の気持ちに寄り添うことができない。
母も父も賑やかではないが、虐待といえる暴力も体罰もなかった。
だがこの細い体で陽は虐待を経験してきた。
このふるえが全てを物語っている。
「部活、なに入ってんだっけ?」
「わがし、食べる」
「和菓子会か?」
「うん」
「へー、んじゃあ俺も入ろ」
「祐希も?」
「ああ、放課後も陽といられるだろ?」
「っ……おれ、要みたいに、おもしろくない」
「いや、あいつはネジ外れてるだけだし。要みたいになろうとしなくていい。俺は陽がいいって言ってんだから」
「……」
「そんな泣きそうな顔するなって。陽は自分が魅力もないと思うか?」
「……おれ、なにもできない。お母さんもお父さんも、ダメな子って」
一見すればクズな親に問題があるのに、陽は自分が悪いものだと信じこんでいる。
こんな身近に虐待を受けて育ったやつがいるのが腹立たしい。
子どもは親を選べないってのに。
「陽、親が絶対じゃない。親だって人間だ。それに、いまの陽の親はあの人だろ?」
「……お父さん」
「陽のことを大事にしてくれないのか」
「ううん……お父さん、やさしい。いっぱいほめてくれる」
「そうだろ。大丈夫だ、陽はできない子じゃない。こんなきれいな包みをデザインできる陽がすげーよ」
「……」
俺には陽の気持ちがわからない。
だが、ひどく歪んでボロボロになりかけているのはわかる。
気になる。
陽のことをもっと知りたい。
「祐希……また」
「ん?」
「また……」
陽はなにかを言いたげだ。
だが、その先が出てこない。
「どうした、陽」
「……い」
「ゆっくりでいいって。聞いてるから」
「い……しょ、帰りたい」
まるでそれを言うことが禁句のように、陽はなんとか言葉を絞りだした。
俺にとってはなんでもないようなことでも陽にとっては恐怖と不安でいっぱいなのか。
そっと微笑むと安堵の顔を浮かべた。
「当たり前。俺らと一緒にいろよ」
「っ……うん」
____陽は、よく泣きそうな顔をする。
だがそれは学校にいるときとは正反対の表情だった。
教室の片隅、俺の隣に座っているときも、同級生に話しかけられたときもいつも無表情だ。
「冴島くん! これ、先生に渡しといてほしいの! 私は今日はやく帰るからお願い!」
「……」
クラスメイトの女に頼みごとをされ、陽はこくりとうなずいた。
昨日見たあれはなんだったんだと思えるほど表情がない。
「陽、それ貸して」
「?」
「俺がもっていく」
よくわからないが、頼みごとを断れないらしい。
断り方を知らない。
周りのやつらも断らない陽を利用して自分の面倒な作業を押しつけていく。
もっと断れよ、と簡単に言っていいのか。
わからない。
「これやる」
「……かめ」
購買に売っていた手のひらサイズの亀のぬいぐるみを陽の机に置いた。
陽は一瞬だけ口角を上げると、それを机の端に移動させて頭をポンとつつく。
「あり、がと」
「ああ」
ぎこちないしゃべり方もかわいい。
亀のぬいぐるみを愛おしげに見つめる陽の横顔はほんとうにきれいだ。
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