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発情期を抑えるために番になることは許されますか?~ぼくのうた きみのこえ~
ぼくのうた きみのこえ11~発情期を抑えるために番になることは許されますか?~
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「うー……。だいぶ濡れちゃったなぁ……」
マンションを出る時、雨はまだ降っていなかったが、天沢に言われた通り、傘を持って出て正解だった。
しかし、傘を差していても、家に近づくにつれて雨足はどんどん強くなっていき、靴の中はもちろん、肩やズボンはびっちょりと濡れてしまった。
秋のひんやりとした風が当たると肌寒く、璃玖は鳥肌が立ちながら、濡れた傘を玄関先に置き、カバンから鍵を取り出して玄関を開けた。
「ただいま」
誰もいないとわかっていても、ついクセで声に出してしまう。
一週間ぶりに帰ってきた家は不思議なもので、自分の家でありながら、まるで他人の家であるかのように璃玖は錯覚してしまう。
天沢から聞いていた通り、家には誰もおらず静まり返っていたため、余計にそう感じてしまう。
とりあえず、璃玖は玄関に荷物は置いたままにして、びしょ濡れになった靴下を脱ぐと、そのまま脱衣所に向かい、シャツと一緒に洗濯機の中に放り込んだ。
ズボンも脱いで入れてしまおうか迷ったが、自室に着替えを取りに行ってからにしようと思い、洗濯機横に整頓されて置かれたバスタオルを手に取ると、肩から羽織った。
璃玖はそのままの恰好で、玄関に置いた荷物を手に持ち、キッチンに向かう。
天沢に作ってもらったおかずを早めに仕舞おうと、冷蔵庫の扉を開けると、中にはタッパーがぎっしり詰められていた。
「なんでこんなに……?」
璃玖の母は、下ごしらえを行うことはあっても、作り置きをすることはなかったため、璃玖は不思議に思う。
冷蔵庫の中を整理して、天沢に作ってもらった分を仕舞うスペースを確保しようと、中に入っていたタッパーを手に取ると、そこには一つ一つ、おかずの名前がマスキングテープに書かれ、貼られていた。
なんとか、全てを仕舞い終え、璃玖は冷蔵庫を閉めると、扉にメモが貼られていることに気が付いた。
『璃玖へ。好きなものを食べてください』
(えっ? じゃあ……)
璃玖はもう一度冷蔵庫を開け、タッパーに書かれた文字を確認すると、それはどれも、璃玖の好物ばかりだった。
(今日帰るって伝えていないし……。もしかして、先週から何度も作り直してくれていたのかな……)
璃玖は慌てて母にお礼の連絡をしようと、足元に置いていたカバンから、スマホを取り出した。
だが、操作をしようと画面を触っても何も表示されず、璃玖は電源を落としたままだったことを思い出した。
(使わなかったら、忘れてた……)
一週間ぶりに電源を入れると、わずかに電池が残っていて、起動することはできた。
「うわっ……。着信やメッセージがいっぱい……」
とりあえず中身を確認すると、ほとんどが一樹からだった。
本当は見なかったことにしたかったが、璃玖の中で罪悪感が生まれ、一つ一つ確認していった。
あの電話でのやりとり以降、数日空いて、一樹から何度も着信が残っていた。
メッセージも届いていたが、それはいつものような、他愛もない話の内容だった。
(一樹……。きっと、僕が話しやすいようにって、気を使ってくれているんだ……)
璃玖は一樹の優しさに胸が締め付けられ、居ても立っても居られず、無我夢中で一樹に電話を掛けた。
手が少し震えるが、深く深呼吸をして、呼び出し音を目を瞑りながら聞く。
「璃玖……?」
数回のコールで出た一樹の声は、後ろから聞こえる雨の音に掻き消されそうだったが、いつもの優しい声だったため、璃玖は安堵した。
「い……つき……」
安堵のせいか、緊張から解放されたせいか、自然と涙が溢れ、もう璃玖には抑えることができなかった。
「っ……。いつ……き……」
「璃玖、泣いてんの?」
「泣いて……なんか……ないよ」
「ばーか。何、強がってるんだよ。璃玖、今どこ?」
「家……だけど……」
「今から行くから、住所を今すぐメッセージで送って。送ってこなかったら、俺、この雨の中、外で何時間でも待つから……」
「えっ? え、ちょっとっ!」
璃玖が動揺しているうちに、一樹から通話を切られてしまった。
慌てたせいで璃玖の涙は引っ込んだが、急いで掛け直しても、呼び出し音が続くだけだった。
まだ一樹に、どこまで話すかも決めていなかった璃玖は、慌ててメッセージを何度も送った。
だが、一向に返信はなかった。
(見ているけど、返信しないんだ……)
璃玖はまた、何度もメッセージを送り続けたが、状況は変わらなかった。
(あれだけ雨の音がしたってことは、一樹、外にいるってことだよね……)
この雨の中、一樹を外で待たせるわけにもいかず、とうとう璃玖が折れて、住所と目印をメッセージで送信した。
(とりあえず着替えて……。あっ、でも……母さんにも電話をしないと……)
一樹の最寄りの駅は、璃玖の最寄りの駅から一時間ほど離れており、たとえどんなに早くても、到着するまでに一時間以上は掛かると予想した璃玖は、先に母へ、帰ってきたという報告と、冷蔵庫の中身のお礼を伝えるための電話を掛けた。
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