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崩壊 -7-
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『あぁ、あぁ、あぁ……!』
裸の男が、性に乱れた自分が、その画面に閉じ込められて喘いでいる。
「……ぁ…………」
気付いていたはずの危険。なぜ今まで、忘れていたふりをしていたのだろうか。
黒宮の顔は完全にぼかされている、ただ櫻井だけがすべてを曝け出されていた。
しかし櫻井にとって何より悪夢であったのは、そこに映し出されたのは情事の映像だけではないことだ。
黒背景の画面、映像はそこに嵌め込まれている。その上にはビビッドなピンクの文字で、安っぽい見出しが付けられていた。
『男性芸能マネージャーの枕営業!売れるためなら本番中出しも受け入れます』
そんな陳腐な煽り文でも、それが自分に対して付けられるとなれば、どれほど絶望的な響きだろうか。
そして映像の横にある『BUY』のボタン、ウィンドウの表示。
櫻井はすべて理解した。すべてが手遅れになったことを。
「……んのヤロオォッ!!!」
凍りついた血が沸騰するのを自覚する前に、櫻井の身体は動いていた。
ほんの一瞬のこと、思考は完全に働いていなかった。
それでも、今自分が喰いかかろうとしている、目の前の男がわずかに仰け反ったのは、視界から脳に伝わっていた。
だが手を掛ける直前、上体が後ろに強く引かれて、指先は虚しく宙を掻いた。
「ふざっけんなぁ!放せっ!!」
武上に羽交い締めにされながらも、叫びも、見開かれた瞳も、ただ黒宮にのみ向けられた。
肩を締め上げる腕から逃れようともがきながら、なおも歯を剥き出しにして、櫻井は黒宮に喰いかかろうとした。
「消せ……それを消せよぉっ!!アアァ――――――ッ!!!!」
それすらも叶えられず、行き場の無くなった怒りは、つんざくような怒号に変えられた。
「……お前もそういう顔をするんだ」
自分たちが交わる姿を背景に、黒宮は櫻井を見下ろしてきた。
「こんな風に自分の姿を見たことなんてないだろ?お前でもやっぱり見たくないと思うか?」
「俺のことなんかどうでもいい!」
櫻井の叫びに、黒宮は口を閉ざした。
「頼む、こんなのが知れたら、あいつらが……あぁ……」
櫻井は少しずつ抵抗を弱め、最後には武上にぶら下げられるように項垂れて、震えた声を上げた。
「終わりだ……俺の、せいでっ……あぁ……ああぁぁっ……!」
画面の中の自分と重なるような声で、櫻井はしゃくりあげた。
1人の男の2つの声が共鳴する中、押し黙る男が2人。
静寂よりも重く、時と空気がその部屋では押し殺された。
「……俺の話はまだ終わってない」
その沈黙を破ったのは黒宮だ。
言葉の後で、武上は櫻井の羽交い締めを解いた。自由となった身体はカクンと膝から落ち、糸が切れたようにその場に沈みこんだ。
「動画を売り出したサイトとは口を聞けるし、買い手は追跡できる程度の数しかいない」
櫻井の顎が上がったところで、そこに黒宮の爪先が入りクイと上を向かされた。
濡れて髪の張り付いた顔が、まっすぐ黒宮へ向くように固定される。
「お前はどうする?」
その言葉に対し、櫻井が間を置いたのは一瞬だった。
選択の余地のない決断を迫られた櫻井は、自分の顔を支える足に目を落とした。
そしてそれを両手で包みこみ、諦めも絶望も、服従をも込めて、舌を覗かせた唇を滑らせた。
「俺の負けです」
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