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崩壊 -9-
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駐車場まで下りて櫻井の車に乗り込み、家まで送られる一部始終、武上と櫻井の間には車の鍵を渡すやり取り以外、1つの会話もなかった。
櫻井は車が走る間、ボンヤリと窓の外を見ていた。
対向車線を走る車に、視線は吸い寄せられていく。目を動かすだけで追いきれなくなると、すぐに次の車に視線を移す。
速いな。
櫻井は流れていく鉄の箱を見ながら、確認するように頭に文字を浮かべた。
身体さえもその速さに吸い寄せられそうな感覚。櫻井は胸をジワジワと浸食する黒い欲求を、放置することでやり過ごした。
自分の家のアパートが見えてきた時には、やはり『遠い』と感じた。
頭が重くて、明日からすべきことも、自分の犯した罪への後悔すらも考えることが出来ない。
ただ、五感で感じるものすべてが心にまで届いてこない、その隔絶に抗えず、虚無感に浸っていた。
武上は櫻井が指示しなくても、車を定位置に駐車した。ここに足繁く通っただけのことはある。
「到着しました」
武上が口を開き、櫻井は「はい」と後部座席から降りた。
武上も降りてきて、車の鍵を閉めるとそれを櫻井に差し出した。「どうも」とそれを受け取って、櫻井はフラフラと部屋の扉に向かった。
「櫻井さん」
部屋の鍵を開けようとしたところで、武上に呼び止められた。振り向くと、武上が車の前からゆっくりと自分に向かってきたところだった。
「ハンカチを」
「……あぁ」
言われてから、櫻井はそれをどこにやったか考え出した。しばらく握っていたところまでは記憶があるけれど。
スーツのポケットを1つ1つ確認したところ、スラックスの後ろポケットから、鼻水やら何やらのベトつきがまだ残る、無地の紺のハンカチが出てきた。
「洗って、明日返します。ありがとうございました」
目線はハンカチに向けたまま、機械的に櫻井は呟いて鍵を回した。扉を開いて、「おやすみなさい」と武上の方を振り向いた。
「櫻井さん」
武上はもう一度櫻井の名を呼んだ。
扉を閉めようとした櫻井の手が止まり、ボンヤリと武上に向けて視線を上げた。
目が合ったところで、武上は再び口を開いた。
「ここからの俺の行動は、黒宮の意思とは無関係とお考えください」
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