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敗北
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おい、着いたぞ。さっさと出てこい。
櫻井は、前島にかけた電話の呼び出し音を聞きながら、いつも通りのやり取りがどうだったかを思い返していた。
『うーっす』
前島の気の抜けた声を聞いて、櫻井の胸には安堵の温もりが広がった。
「着いたぞ、はやく出てこいや」
『へいへい、ちょっと待ってろや』
通話を切りながら、櫻井は世界が自分のもとへと戻ってくるのを、深いため息とともに味わった。
これだけはいつもと変わらない。仕事のことを考えているときは、世界を鮮やかに感じられる。
2人と会話をしているときだけは、慌ただしさで頭がいっぱいになって、虚しさを感じる余裕もない。
そんな日々も、あと少しで終わってしまうけれど。
「おはよっす」
ダラダラと車に乗り込んできた前島1人を乗せて、そのまま事務所に走る。
木田は今日、玉谷の方の車に乗ってくるはずだ。……あいつの送迎をできる日は、残された時間以上に限られてるのか。
後ろ髪を引かれてしまうのは、どうしようもないこと。それでも、自分のしでかした過ちは、自分で清算しなければならない。
希望が完全に潰えるわけではない、彼らさえいてくれれば……
* * *
2人が事務所に着いたときには、木田と室井、玉谷の3人は事務所の自販機スペースで寛いでいた。
櫻井は昨日に引き続き、木田と室井の恋仲について思いを馳せた。
木田にも室井にも「無垢」と言えるような純粋さを櫻井は感じており、そんな2人が愛しあうことになるのも彼ららしいと思った。
そして、無垢であるだけにだけにその愛は脆く、外からの攻撃を受けやすいという懸念もある。
次のマネージャーに据えるのも、pmpだけでなく2人の関係、それに前島への考慮も同時にこなせる相手でなければ。
「前島、俺ちょっと社長に用があんだわ。木田にも言っといてくれ」
「あぁ、そうなの?分かった」
櫻井に頷きを返した前島は、3人の方へのんびりと寄っていく。彼らもそれに気付いたようだ。
前島の背中をボンヤリ見送っていた櫻井は、ふと木田の視線が前島から自分へと移ったのを感じて、反射的に目を合わせた。
櫻井は軽い挨拶と、自分は席を外すということを伝えようと、手を上げかけた。
しかし、自分を見る木田の表情がわずかに固くなったのを見て、櫻井は反射的に起こった動悸とともに、木田から目を逸らした。
何も言われないうちに、と急ぎ足で社長室へと向かった。
木田もアレで観察眼や野性的な勘は冴えていることは知っている。まだ彼らに、何も悟らせてはいけない。
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