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敗北 -4-
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一歩一歩、歩いていても、夢の中を歩くかのような不確かさが纏わりつく。
櫻井はpmpと室井たちで集まっていた場所へと引かれるように歩を進めた。
喉から手が出るほどに欲しいもの、それは『生きた心地』。今はもう、彼らの側にいることでしか、感じられなくなってしまうのではないかとさえ思える。
しかし残された日々は少ない、そればかりを求めて、今度こそ取り返しのつかない失敗をするわけにはいかない。
受け入れられる、彼らを守るためであれば、本当に望むものを失うことだって。
櫻井が彼らのもとへとと到着したときには、そこにいるのは木田と前島の2人だけだった。
「悪いな、ちょっと社長の所に用があって」
「もしかして……次のサポートの話か?」
前島がニヤつきながら聞いてきて、櫻井はドキリとしながらも「なかなかイイ線だ」と笑顔を作った。
それからチラリと木田の方を一瞥したが、手に持った空き缶を指で叩いてリズムを取りながら、何やら鼻歌を歌っていた。
櫻井はそれを見て少しホッとした、自分が少々過敏になりすぎていたのかもしれない。
「悪いな、ギリギリになっちまった。行こうか」
「へいへい」
「んー」
気を取り直して外へと向かう櫻井の背後で、前島は気のない返事を送りながらも、木田の方をチラと見た。
木田も前島の方を見ながら、かなり迷い気味に、首を傾けた。前島はそれを見て、少し俯きがちになりながら、その角度からコクコクと頷いた。
「正直、もうちょっと様子見てるしかねえよ。俺らはいつも通りにしとこうぜ」
前島が小声で、乱暴な言葉にならないように気を遣いながら、木田に語りかけた。
「……おぉ」
木田もポツリと呟いて、櫻井の背中を大股で追っていった。
更にその背中を、通路の陰った場所から見送る視線。
「なぜ隠れたのですか」
彼らを見つめていた黒宮、そのすぐ側にある扉が開き、武上がノッソリと姿を現した。
「あいつがマネージャーやってるところって、あんまりちゃんと見たことないなって思って」
答えにならない答えを返し、黒宮はパーカーのポケットに手を突っ込みながらダラダラと歩き始めた。
「あんな感じなんだね」
黒宮は気だるげに言い放つだけで、それきり黙って彼らのいた自販機へと足を向けた。
あたたかいココアを選んで、プラスチックの白い椅子にもたれながら、しばらくそれにチビチビと口を付けていた。
武上は立ったまま、無言で黒宮を見下ろし、視線を送り続けている。
「……分かったよ」
武上を鬱陶しげに睨みながら、黒宮は唐突にそう呟いた。
「でも、まだ終わりじゃないからな」
甘ったるい液体を飲み干して空き缶をゴミ箱に投げ入れると、黒宮は立ち上がった。
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