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敗北 -18-
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まだ電気の通っている機械は、青白い火花をいくつもの破片とともに弾けさせた。繋がっていたコード類で巻き添えになった周辺機器が、床へと雪崩落ちていく。
テレビは画面の色と像を歪ませたあと、ブツッという音を立てて黒い光が灯るだけになった。
「……どうする」
黒宮の息はわずかに上がっていた。
「他の部屋も見てくか?もっと徹底的に砕くか?満足するまで壊してけよ」
櫻井は床に散らばった機器と黒宮の横顔を交互に見ながら、驚きにメモリを喰われている脳をどうにか落ちつけようとした。
今日の黒宮はどうしたというのだ?さっきからコロコロと雰囲気が変わっては、突飛な行動に出てくる。この取りとめのなさ、まるで昨日の、自分のような。
「言いたいことはねえのかよ」
すごみの聞いた声で黒宮が静かに問う。その声にまた体を強張らせながら、櫻井は今自分のすべきことを考え出した。
今すべきこと、この場での、最善の判断。
「……いえ」
結果。
「ここまでしていただけたなら、充分です、もう」
櫻井は、それ以上追及することを諦めた。
彼が今ここでコンピューターを壊して見せたのが更に自分を欺くためとは、なぜか思えない。黒宮が嘘をついているようには感じられない。
「……そう」
解放された。
櫻井は壊れた機械を見下ろしながら、ただそれを理解した。
喜ぶべきはずのことだ。握られるものの無くなった今、今までの仕打ちについていくらでも黒宮を責められる。
しかし、櫻井はどうにもそうする気にはなれなかった。少なくとも、それを今の黒宮に向けるのは何かお門違いな気がしてならなかった。
「じゃあ、やることないならもう帰ったら」
「大丈夫……ですか?」
「うん、大丈夫。バイバイ」
「……では、失礼します」
今、黒宮が自分にしてきた行為を責め立てる気にはなれない。だからといって、黒宮に何か言葉をかける義理も感じられない。
櫻井は黒宮を置いて部屋を後にしようとした。
「櫻井くん」
櫻井は扉を閉めようとする手を止めた。薄く開いた隙間から、床に視線を落としたままの黒宮を覗き見た。
「ごめんね、今まで」
小さな、小さな声で、黒宮は謝罪の言葉を述べる。
「…………えぇ」
櫻井はドアノブから手を離し、寝室から微かに漏れ出る光を背後に受けながら、今度こそ立ち去った。
駐車場へと続く階段を、重い体を引きずりながら降りていく。
今日は家に帰って早めに休もう。本当に久々に、ゆっくりと。
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