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敗北 -19-
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中途半端に開かれたドアが「失礼します」という声とともに開け放たれる。櫻井が去ってから、何も状態の変わらないままの部屋。そこに武上が現れた。
「来るのが遅かったな」
俯いたままだった黒宮が、何ともないとでも言うように顔を上げた。
「あいつが帰ってから10分は経ってる」
「櫻井がこの部屋を立ち去る時間を見越したつもりでしたが、完全には読めませんでした。申し訳ありません」
「ううん。おかげで落ち着けたよ」
黒宮の視線がわずかに、冷やかに細められた。
「俺はてっきり、そういう時間を与えてくれるために、敢えて遅れたのかと思ったけどね」
「その意図も無いではありません」
「マジで化け物かよ……」
フーと大きくため息をついたあと、しばしの沈黙。
武上はその沈黙の間に、おもむろに腕を上げて、腕時計の文字盤を見つめ始めた。
黒宮は、櫻井との会話を頭で思い返し、ひとつ深呼吸をする。そして心の中で唱えた。
話せて良かった。謝れて、良かった。
「いいよ、もう。好きにしなよ」
投げやりな言葉を吐く黒宮に対し、武上は何も答えない。視線をこちらへ移そうともしない。黒宮はウンザリしたように天井を見上げた。
「ハッキリと俺の口から言わなきゃ認めないってわけか」
なおも武上は沈黙を貫いた。
「…………分かったよ」
黒宮は割れたプラスチックの散乱する中を歩き、武上の目の前に立った。目線の位置は、武上の腕よりも少し上。
武上をすぐ近くで見上げながら、黒宮はスゥと息を吸って、次の言葉を発した。
「俺の負けだ」
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