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解放 -11-
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鼻歌が近づいてくる。
黒宮はその音で、暗闇の中目を覚ました。鼻歌に交じって鈍い足音も聞きとれたとき、部屋のドアがガチャリと開けられた。
部屋の外は明かりを点けられていたようで、その眩さに黒宮は目を細めた。
「うーん……」
そこに立っていたのはもちろん、武上。彼はその部屋の空気を深く吸いこんで、ホッと息を吐いた。
「なんだ、クソは漏らしてないのか?1日くらいなら我慢できたか」
射し込む光はベッドにできた黄ばんだシミも晒し出す。その面積は、武上が今朝方に部屋を出たときより確実に広がっていた。
「……時間だから戻って来たんじゃないの?」
濡れたベッドの中央に鎮座する黒宮は、武上の口調に釈然としない様子だ。
「いや、あと2分ある」
武上は唐突に無表情になった。日中に櫻井に向けたものと同じ、それだけで空気を凍てつかせるような、無慈悲の者の顔。
「まだ一番やりたいことを残してるんだ」
武上は黒宮に跨るようにしてベッドに膝を突いた。重みで潰れたマットレスから尿が沁みだして、革のパンツが臭いたつ液体に浸食されていく。
そんなことはまるで意に介さず、武上は黒宮に向かって両手を下ろす。その両手が掴んだのは、黒宮の首。
「ぁっ……」
文字通り、絞られた声が黒宮の喉から漏れ出る。武上の呼吸も荒くなってきた。
「あぁ、あと90秒」
黒宮は酸素を求め、無意識のうちに口をめいっぱい開いて呼吸を繰り返した。それでも、ストローで吸うよりもか細い量の空気しか喉には入ってこない。
「60秒を切った。……黒宮さん、賭けてみるか?」
血管も圧迫されているのが、首から上の痺れが強くなったことで感じられた。
「このまま24時間が終わるか……」
「ァ……」
ここに来て、首は更にきつく締めあげられる。
「あんたが終わっちまうか……」
一日中裸で身体はとうに冷えていた。それでも更に体温が奪われているのが分かる。視界が黒い砂嵐に潰れてきた。
「さぁ、もう30秒もない。最後に聞いてくれ」
聞いてくれと言われても、耳もだいぶ遠のいていた。
「俺はあんたを愛してる、これだけは信じてほしいんだ」
「…………」
元気だったら舌打ちを打っていたところだ。
命に縋りつこうとした気持ちが、その一言で不意に白けてしまった。
目が見えなくなってきた。武上が何か言っている……それは意識の片隅で、子守歌のようにも聞こえた。
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