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現実 -3-
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元々熱中できるものを持つタイプでは無かった。
ハッキリとした趣味らしい趣味はなく、なんとなく気の合った友人と旅行に行ったり気ままに遊んだりしていればそれなりに満足できていた。彼女も出来たり別れたりして、櫻井自身、人並みの人生を送ってきたと自負している。
しかし仕事を始めて、学友や彼女との時間も無くなってからは、何かをするにもその時間も無く、だんだんと遊び自体への欲求も衰え始めた。地獄の3年目を経験して、完全にそうしたものへの縁も切れた。
pmpに出会って、初めてと言っていいくらい、櫻井は1つのことに全力を注いで打ちこむという経験をしている。
一度空っぽになった分、生きがいを見出したものには驚くほど突っ走れた。というよりは、そうすることしか出来なかった。
そこから数年、仕事に打ちこみすぎて、それ以外のことを考える余裕は無かった。彼女が欲しいと感じたこともないし、それを疑問に思うことさえもなかった。
そんなところに転がり込んできた、前職とは別の方向での悪夢の日々。その時は悪夢とも思っていなかったのが、また悔やまれるところだ。
それが引き金になって、完全に忘れていた仕事以外への欲求が、妙な形で開いてしまった。
もともと、仕事に偏りすぎていてこれではバランスが悪いと、うっすらとは考えていた時期だ。
とはいえ、仕事以外に夢中になったものがセックス、しかもこんなアブノーマルな欲求なんて。
未だ穴を埋められずにいた『プライベート』という空虚にすっぽり入ってきた性欲求。仕事から解放されたとき、櫻井の思考が向かう先はそこに行き着いた。
これでいいのかと考えては、いいわけないという結論を毎回出してはいるが、身体の方が欲求に飲まれる。
なんといっても辛いのは、今のツアーの日程、ホテルで相部屋になった日のことだ。そばに男のいる状態で眠るなんて、慢性的に欲求不満状態の身体には生き地獄だ。
そういう日は仕事のことを考えながらむりくりに眠る、そうやってどうにか耐え凌いだ。
ツアーもほとんどの日程を終え、飛びとびでしか帰っていなかった東京の家にやっと腰を落ち着かせることが出来る。
少し前までは、プライベートなんてなるべく無い方が余計なことを考えずに済んで良かったと思っていたのに、今はこうもありがたい。
スタッフたちと空港で解散して、乗車即就寝のお2人を家まで送り届けて、家へと帰る車はアクセルがいつもより軽い気がした。
アパートの駐車場に車を停めたとき、道が別の車のライトに照らされて、櫻井はふとそちらの方を向いた。
「は……?」
やばい。
闇の中からヌッと現れた、その車を櫻井はよく覚えていた。反射的に逃げようとしたが、そいつが道を塞ぐように自分の車の前に出てきた。
夜闇の中でスモークが張られてていても分かる、運転席の男。無遠慮な場所に車を停めたまま運転席から出てきたのは、武上征爾だ。
櫻井は観念して自分も車を降りた。ダボついたパーカーにジーンズ、『私用』で来たというわけか。
「お久しぶりです、櫻井さん」
しかし顔も声色も仕事の時の表情だ。何か悪意があってそうしているんだろう。
「まぁまた突然ですが……何のご用件ですか?」
大柄の男を下から睨みつけても、その表情に変わりはない。
「俺の渡した動画は、ご覧いただけたでしょうか」
「……あぁ、アレ。見ましたよ」
武上に渡された当日、ディスクの映像は確認した。
映っていたのは豹変した武上に、痛々しい悲鳴を上げながら、拷問のような愛撫を甘受する黒宮。それが櫻井にとってどういう『材料』になるかは、見て瞬時に判断出来た。
しかし櫻井は、渡されたそれについて敢えて忘れようとしていた。第一に気分が悪い、身体がこんな状態になっても、あの映像には色気よりも吐き気を催す。
それに気味が悪いのが、あれだけ身勝手でワガママな男が、なんの抵抗もなくそれを受け入れているところ。そういった面から、その映像を利用するかどうか以前に、考えたいと思わなかった。
「しばらく様子を見ていましたが、アレを利用はされないのですか」
「別に……特に脅してまで欲しいものはありませんし。それより、今日は何しに来たんですか?」
「いつか連れて行けなかったドライブに、あなたをお連れしようと思いました」
「そのふざけたキャラでか?」
「はい。悪ふざけです」
「あぁそうかよ……悪いけど、疲れてるんでお断りさせてください」
櫻井は手を振って、そそくさと部屋に戻ろうとした。
「ついてくるな!警察呼ぶぞ!!」
やはり見逃してもらえるわけもなく、ドアの手前まで武上が付いてくる。
「諦めきれません」
「断るに決まってんだろっ、また部屋に上がり込んだらマジで警察に突き出すぞ」
「了解しました、では、ここで」
「んっ……!?」
櫻井が抵抗する間もなく、武上は櫻井を抱き押さえてその唇を奪った。口に割り込もうとしてくる舌を噛んでやろうかと思ったが、櫻井はその直前で動きを止めた。
デニム生地越しにも、武上のペニスが膨らんで腹に当たっている。どれだけ発情が早いんだ?
そう思う前には、懐かしささえあるその形を感じて、一瞬思考が停止した。
「んっ」
その一瞬の隙に、あえなく口腔は犯された。唇の裏を舌になぞられて、虚しくも身体は反応する。
久々の身体のふれあい。しかも散々にこの身体を調教した張本人の体温。
油断しきっていた櫻井には、残酷すぎる褒美だ。
「ぁ……」
舌が離れたとき、櫻井は呆然としていた。
警戒を怠ってはいけないと分かっているのに、この男の前では無防備になることを、身体が覚えさせられている。
武上の顔が自分の耳近くに寄せられたのは、少し正気を取り戻して彼を振り払おうと考えたときだった。
「あなたが拒否するのであれば、今夜は前島弘介で代用します」
この、一瞬で人を凍りつかせる声と言葉も、久々だ。
櫻井は今気付いた。言葉の内容だけでない、そうした口調にこちらが抗えないように仕向けるのも、調教の一環だったのだ。
「クソ……」
櫻井はうなだれて、武上の腕の中におさまった。
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