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現実 -7-
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「到着しました、お目覚めください」
武上の抑揚のない口調に起こされて、櫻井は目を開けてから数秒呆然とした。
「……あぁ」
状況を思い出し、そして窓から見える景色を眺めて、おおよその状況は理解した。
この場所は、もう何度も来た場所。眠る直前に車が動き始めたとき、予想していたところと同じ場所だ。
武上が櫻井の手錠を外す。ずっと身体の下敷きになって痺れた手をプラプラとさせてから、櫻井は朦朧としたまま服を整えた。
「どうぞ、こちらへ」
照明に照らされた扉を武上が指した。櫻井は少し躊躇ってから、車を降りた。コンクリートに覆われた場所、地上のボンヤリとした夜の薄明かりが、足元にわずかに光を落としていた。
だるい身体を引きずりながら、櫻井は目の前の扉の先に、更なる堕落が待っている気分に囚われた。
一番初めと同じ失敗の道を繰り返しているのは分かっている。……いや、今こうして取っている行動は、その失敗の延長だ。
武上が悪魔のささやきを担保に取っている限り、自分の負けはもう、拭えない。
それに、自分の中でまだドロドロと燻っている、この欲求も。
扉を開けた先に昇り階段が続いている。櫻井が前になって、そこをゆっくりと登っていった。
上がった先の玄関で靴を脱いで、タイルの床に足を付けた。武上が何も言わなくとも、プログラムされたように櫻井の足は動いていく。
そして、閉ざされた扉の前に櫻井は立った。
武上が前に出て、コンコンコン、と3回ノックする。少しの間反応が無いかと思ったら、ゆっくりと扉が開かれた。
「………………」
扉の向こうから顔を覗かせた黒宮は正面の櫻井を見て、隣にいる武上に面白くなさそうな目を向けて、また櫻井へと視線を移した。
「何やってんの、お前」
最もの問いだと、櫻井は笑いそうになった。
「……半ば無理矢理、あんたのマネージャーに連れてこられた」
「それは大体分かるよ、何で今更そんなマネしてんのかって聞いてんの。別に言いなりになる理由なんてもう無いでしょ……俺にも、そいつにも」
「その辺はこの人に聞いてください……それに」
櫻井は少し唇を噛み締めてから、スウッと息を吸って口を開いた。
「半分は、自分の意思もあり……ますよ」
櫻井の言葉で、黒宮の眉間に皺が寄った。
「ま、そういうこった。話聞いてやりな!」
黙っていた武上が、急に態度を崩してヘラっと笑いだした。
「とりあえず立ち話もなんだし、部屋に入れてやれよ。な?」
ポンと叩かれた肩が、櫻井には妙に重く感じた。
「……入れば」
釈然としなさそうな色を残したまま、黒宮は来客者を部屋へと促す。櫻井はその背中を見つめた。
彼も今や、立場は自分と同じ。あの日お互いに変な気さえ起こしていなければ、今こうしていることは無かっただろう。
黒宮も櫻井も、誰に負けたのかと言えば、ニタニタとした笑顔を浮かべる大きな道化にだろうか。
部屋はまるで、今しがたまで眠っていたかのような静けさと暗さ。黒宮はいつものようにベッドに腰掛けながら、招かれざる客たちを睨みつけていた。
「……なんでいきなりそのツラになんの」
黒宮は武上を視線で指した。武上はまた仕事中の表情に戻っている。
「ここに櫻井さんをお連れした段階で俺の役目は終わりました、あとは、お2人で」
しれっと答えた武上に対し、黒宮はものすごく物言いたげに唇を震わせたが、諦めたようにため息を吐いてベッドに寝そべった。
「そもそも、休みだって言ったのに何でわざわざ来るんだよ」
「櫻井をこちらに呼び、休日を趣味に費やす目的です」
「で、その櫻井は何がどうしてそうなったの」
櫻井は名前を呼ばれて、俯き気味だった顔を上げた。起き上がって櫻井の瞳を見た黒宮は、少しだけ身構えた。
どこか虚ろげな瞳、しかしそれは虚無感や絶望に打ちひしがれたようなそれとは違う。熱に浮かされた、もっといえば、欲情に揺れた瞳。
櫻井自身も、今は自分がそれしか頭にないつもりでいた。
しかしいざ、久々に黒宮を直視すると、なにか同情のような、共感のようなものが込み上げてくる
何せ最後に見た姿が、あの痛ましい映像だから。
「……隣、いいですか」
「別に」
櫻井は、黒宮の隣に並んでベッドに腰掛けた。
「身体、大丈夫なんですか」
「は?」
「あの映像見て……よくあんなの、あんたが素直にやられっぱなしでいましたね」
「……あぁ、アレ。別にあんなもん、いつもと一緒だよ」
「いつも?」
「結局、俺の思い通りにならなかったってだけ。思い通りになるか、ならないか。それだけ」
「……あんたも大概分かんないですね」
「お前も似たようなこと言ってたね」
視線を向けられた武上は、無言で恭しく頭を下げた。この変態はこの先の展開に対し、傍観者に徹することにしたらしい。
「で、なに、そのことで俺をゆすりに来た?」
「……そうなりますかね」
黒宮は視線を伏せて、軽く舌打ちした。
「また俺を雇いに来た?」
「それは考えてないです」
「即答しないでよ。じゃあ、pmpを一気にスターダムへと駆け昇らせるようにって?」
「そこはあいつらに自力で頑張らせます」
「あぁそう。じゃあなに、お前も俺にカメラの前で小便垂らさせながら犯したいって?」
「…………」
「マジで」
「いや、あれは正直ちょっと……ただ、もっと普通で、前みたいでいいから……」
2人の視線がそこで交叉した。
「……してほしい」
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