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デザートとコーヒーまであらかた食べ、そろそろ立とうかという空気が流れる。櫻井が伝票に視線を向けた瞬間であった。
「今日は俺が持つよ」
「えっ?」
机の上の伝票をひょいと黒宮に取られてしまった。
「いやいやいや、そんなダメです!段取りもすべて任せてしまったのに代金までなんて……困ります」
鞄の中から急いで財布を引っ張り出し握りしめる櫻井を見て、黒宮はニンマリと笑った。
「奢られるんじゃプライドが許さない?」
「そんな問題じゃないですよ……ただ単純に、食事代を払っていただいては申し訳ないです」
「その気持ちってどこから来るの?」
「はぁ?」
食事代を払ってもらうのが申し訳ない、その気持ちがどこから来るか?
哲学なのか何なのか、櫻井は質問の意味すら理解しかね、つい失礼な相槌が出てしまった。
「今回も貸しってことで」
櫻井が考えて固まっている間に、黒宮、武上と立て続けに櫻井の横をすり抜けて行かれてしまった。
ハッとして振り返った時には、武上の大きな背中が目の前にあった。黒宮に近づくのを阻むような雰囲気を漂わせていて、櫻井は一旦食い下がることを諦めた。
今回は送迎まで武上に任せてしまっている。それこそ借りを作りっぱなしだ。あとで車の中で無理やりにでも代金を渡そう。
武上は黒宮に礼すら言わず、さっさと駐車場へと歩き出す。櫻井は武上を視線で追いかけはしたが、黒宮の会計が済むのを待とうとチラリとそちらを窺った。
櫻井はそこでギョッとした。彼の財布から出てきたのが、威圧感のあるブラックカードだったためだ。あんなの一介のサポートミュージシャンが持てるはずがない。
櫻井はそれを盗み見たことを悟られないように目を背けた。
「黒宮さん、やはりお金は……」
会計を済ませた黒宮と並んで歩きながら、櫻井は恐る恐る財布を取りだした。
「貸しだって言ってんじゃん」
黒宮は目もくれず、すたすたと車まで歩きだす。車は既にエンジンがかかり、武上がドアを開けて立っていた。黒宮が乗り込むのに続き、櫻井も武上に一礼してそれに続く。
不自然に手厚い待遇は櫻井の不安を掻き立てた。先ほど見たカードも思い出しながら、櫻井は改めて、自分が危うい賭けをしていることを自覚した。
香月がなぜこの男のいいようにことを運ばせるのか、櫻井はその理由を知らない。
下手を打てば、pmpも自分もどうなるか分からない。それは頭に置いておかなければ。
「メシ代の分、俺の質問に付き合ってくれる?」
「それだけでは……」
「全部正直に答えるか、答えたくないものには答えたくないで答えて」
櫻井の言葉を遮って黒宮は言葉を続ける。あちらのペースに呑まれるばかりだ。
「……分かりました」
櫻井は流れに乗ることにした。自分の思うようにいかない時は、大概もがくよりも力を抜いたほうがいい。
「パンツ下ろしたあの場で、なんだったら君はできなかった?」
「……」
早速暗礁に乗り上げそうな流れだった。このタイミングで車が動き出したのも、まるで自分を逃がさないためかのように錯覚される。
「自分では思いつかない、という回答はありですか?」
「もちろん、それが正直な回答なら。じゃあケツ出してお礼しろって言ってたら?」
「……それは何も変わらないでしょう」
「そりゃそっか。しかし本当、なんであの場でパンツ下ろせるの?」
「それは、頼まれたことですし、断る理由もありませんから」
ふんふんと頷く黒宮の顔が何か企むような笑みになっているのを、櫻井は薄暗い車内でも確認できた。
櫻井はその笑顔に戸惑い気味に愛想笑いを返す風で、注意深く黒宮のことを観察していた。
一月前のやり取りの後でこうして食事にまで呼び出されるのだから、好感は持ってもらえたのだろう。それは櫻井自身望んでいたことではあった、しかし展開が早すぎる。
「断る理由がないことなら引き受けるんだ」
「断る理由がないんですからね」
「だったらさぁ」
黒宮の顔が近付いてくる。不安の色は一気に濃くなった。
「俺の前でオナニーしろとか言ったら、お前はするの?」
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