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接触 -3-
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木田が失態を犯した打ち上げの日、木田が香月に「ブス」と罵る直前、香月が木田に近づく一連の流れを櫻井は見ていた。
香月はわざわざ室井と木田の間に割って入って木田に密着、そして大胆にも唇が迫るほどに顔を近づけていた。
ギャラリーがいたわけでもないし、酒の席でのパフォーマンスといった様子でもなかった。明らかに性の対象として、香月はあのとき木田に近づいた。
そのことを踏まえて香月と黒宮の関係を考えると、櫻井はある可能性に行き着いていた。
香月にとって黒宮もそうした対象か、あるいは既に関係を持っているのではないか。
同性同士の関係というところに発想が行き着いたのは、木田の影響があるのかもしれない。だが財力や知名度、コネクション、どの観点から見ても黒宮は香月に劣っていることを考えれば、それがどうにも納得のいく答えだと思った。
しかし木田への迫り方からして、香月は決して一途な男ではない。財力の点で言っても、先ほどのきな臭いカードからして見当違いだった。
香月が黒宮と関係を持って弱みを握られた、櫻井はその可能性も考え始めていた。
そして今、黒宮は目の前でオナニーができるかと、櫻井に問い詰めている。櫻井はその質問に答えることができず、数秒固まっていた。
「おい」
「……はい」
目の前の人物はあまり気が長くないようだ。
櫻井に呼び掛けるその声は幾分いつもより低いし、顔も怒ってるとまではいかないが、口角の拡がっていないそれは決して笑顔とは呼べない。
「考えないで思ってることを正直に言えよ」
「正直に……と言われましても、迷いますよ」
「迷う?」
途端に黒宮はキョトンとして、櫻井も言葉を間違えたと今更気づいた。
「櫻井さん」
「はい」
「普通の人なら大抵迷わず嫌がるのは分かる?」
「……分かります」
「で、君は正直なところ迷うの?」
「迷いました」
「どうして?」
「……ちょっと考えをまとめるので、座りなおしていいですか?」
黒宮がどんどん近くに迫ってきていて、櫻井は後頭部が窓にぶつかるくらい上半身を反らせていた。黒宮は櫻井から離れたが、その目は不思議な生き物を見つめるかのように櫻井に釘付けになったままだ。
「本当に正直に答えますと……別に俺がオナニーしてる姿を見られること自体には、特に抵抗はありません」
黒宮は櫻井を見つめたまま眉をひそめた。見るものにはそれが機嫌を損ねたわけでなく、不可解なものへの戸惑いを表したものだということは容易に理解できた。
「ただ、何のためにそんなことを要求するのか分からないのが不安です」
「やれって言ってやったら面白いからに決まってんじゃん」
「そう言われましても……」
「思ってること、はっきり言え。さっさと」
凄んでくる黒宮に、櫻井は恐怖で脈を速めながら、視線をあちこちに泳がせた。
「……正直、弱みを握らせるような気がすることについては、いささか抵抗があります」
「なんだ、わりかし普通のこと考えてんじゃん」
黒宮は満足したように自分の席に戻り、組んだ手を頭の後ろで枕にして、シートに深く沈んだ。
「でも弱みってなに?俺だってそこら辺の男にオナニーさせたなんて恥ずかしくて言えないよ?お前と違って」
「それはそうでしょうが……」
「本当に見せるの嫌じゃないの?見せたことあんの?」
「ありませんよ。想像してみて、特にイヤとも嬉しいとも思わなかっただけです」
「想像ね」
黒宮のしたり顔にまた不穏な空気を感じた直後、櫻井は顔を青くさせた。
黒宮の背後、窓の外の景色は、どう見ても自分の家へと向かう風景ではない。
「やっぱり実際やらせてみたときの感想が知りたいな」
櫻井がフロントガラスに視線を移した時には、車は目の前に広がる入り口付きの坂に向かって滑り降りていた。
その先には車5,6台が入るほどの下駐車場が見える。アパートや、どこかの施設の駐車場と考えるにはあまりに小さいが、しかし。
「ホテルじゃないよ」
黒宮の声は少し弾んでいるし、笑顔の作り方もいつもより幼い雰囲気だった。
「別にそれくらい、俺んちでやればいいでしょ」
やられた。
一角に停められた車がエンジンを切られたと同時に、櫻井はヘナヘナとシートに崩れた。
行動力というか、大胆さで言えば、自分より黒宮の方がよほど上手だ。
櫻井は自分の迂闊さを呪いながらも逃げられないことを認め、武上がドアを開けたのに応え、黒宮の家の敷地に足を降ろした。
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