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接触 -5-
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櫻井永徳。
奈良県出身、高校卒業まで同地で暮らし国立大学進学と同時に上京。
大学卒業後は証券会社に就職するも、3年後に退職。
現在の事務所にpink motor poolのマネージャーとして入社したのは、同グループが事務所に登録されたのと同時、彼の退職から数えると2年後のことである。
武上が入手した櫻井の履歴書の写し、黒宮はベッドに寝そべってココアクッキーをかじりながら、その中身を読んでいた。
ベッドの向かいにあるテレビボードは下の引き出しが開いていた。その中では無線受信器が小さなノイズ音を立てている。
「櫻井を送り届けてきました」
唐突に扉が開くと、武上は間髪入れずに報告から始めた。
「ご苦労様、なんか報告ある?」
「本日は会話した内容以上に得るものはありませんでした」
「俺は会話を聞いてても何も得られなかったんだけど」
武上が櫻井を送り届ける間、黒宮は無線で2人の味気ないやり取りを聞いていた。
盗聴器は櫻井が脱いだスーツにまだ付いている。武上が預かった時に仕掛けたものだ。
櫻井が家に着くなりすぐにクローゼットに入れられた結果が今のノイズ音である。
時折環境音を拾うだけになった無線も、武上に電源を切られて終わった。
「それではこの4週間の彼の動向についてですが」
武上は入り口そばに立ち、背中で手を組んで黒宮に向かった。
「仕事のある日はもっぱら自宅と仕事場の往復、休日はCDショップとスーパーマーケットを順に回ることを習慣としているようです。
飲食店へ行く日もありますが、今のところ仕事上の付き合いのある人間以外と食事をした様子はありません。
車から追えた動向はここまでですが、公共交通機関を利用して酒場に行く日は2回ほどありました。この場合も相手は仕事の関係者です。
プライベートと言える行動がないわけではありませんが、全く仕事に関わらない娯楽に時間を割く様子は見えませんでした」
「仕事の鬼ってか」
黒宮は仰向けのまま、逆さまの視界に武上を映した。
櫻井と黒宮たちが事務所で話したその日のうちに、武上は櫻井の車に探知機を付けていた。
「じゃあ、自分のザーメンまみれのティッシュを食べるのも仕事のうちか?」
「黒宮さんに取り入ることが仕事上必要と認められれば、その可能性はあります」
「必要性か」
黒見は天井に向き直って伸びをすると、またクッキーに手を伸ばす。
「サポートに呼びたいからってそこまでするって変だよねぇ」
「同意します」
「ということはだ」
「サポートミュージシャンとして、ということ以上にあなたを必要とする理由がある。そう考えて不自然はないかと」
ボリ、ボリ、ボリと、のんびり顎を動かしてクッキーを砕く。
「いいさ、目的を持ってこちらに近づいてくれる分にはやりやすい」
「あなたが『支柱』と呼ぶものも明確です」
「本当にね。分からないところはマジでわけ分かんないのに、分かりやすいところは本当分かりやすい」
「その分からないと述べる点ですが」
ゴクリと喉が鳴る音の後、黒宮の首がゆっくりと武上の方に向く。
「前職で関わりのあった方々の証言から、得られるものがありました」
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