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開発 -5-
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柔らかな温水と武上の手が櫻井の身体を撫でる。
今日の開発とやらが終わり、今はローションでべとついた体を洗い流されているところだ。櫻井は武上に洗ってもらうのに都合が良いようにと背中を向けていた。
「武上さん」
「はい」
「あなたはこんなことをやれと言われて、イヤにならないんですか」
櫻井は背中を向けたまま、少し小さな声で尋ねた。
「特にそのように思ってはおりません。身体を触られるのが不愉快であれば、後の洗浄はお任せして、俺は失礼します」
「俺がどうとかじゃない」
ここで櫻井は体ごと振り返る。シャワーヘッドを持つ武上の手は動かず、櫻井の胸から腹にかけて湯は流れ落ちていく。
「イヤでは無いからって、やりたいとも思ってないでしょう」
「はい、特に命じられなければ行わないであろうことです」
「なんでそうまでして黒宮さんに従ってるんですか?」
櫻井が食ってかかる勢いを見せても、武上は眉一つ動かさなかった。
「俺は黒宮のマネージャーです」
「バカを言え!」
櫻井の声は浴室に反響した。
「こんなのマネージャーとアーティストの関係を超えてる……俺たちは別に小間使いでも奴隷でもないでしょう」
ノータイムで返されていたはずの武上の返事が、ここで一度止まった。
「あなたと同じです」
武上が動き出すそぶりを見せたので櫻井は身構えたが、彼は櫻井とは反対方向にある蛇口に身体を向けた。
「特に断る理由はありません」
キュッ、キュッと蛇口をひねる音と共に水勢が落ち、滴をポタポタと落とすだけになったシャワーはスタンドに戻された。
「指定された時刻となりました。よろしければ次に性感帯開発を行う日時を打ちあわせたいのですが、お時間はよろしいでしょうか」
「…………」
櫻井は口を動かそうとしたが、そこに言葉がうまく乗らず、空を食むだけになった。
「……3日後に休日があります、その日で良ければ」
暖簾に腕押し。ただ揺さぶっただけでは、この男はそうそう動じない。おおよそ分かっていたことだ。
それであれば。
「というか、自分でやっておきましょうか?」
武上の表情は動かない、が、動きが不自然な固まり方をした。
押してダメなら引いてみる。少しばかりの手応えはあったようだ。
「時間を取ってもらうのも悪いですから。自分で良くなってきたと思ったら、お知らせするのではどうでしょう」
「……おそらくは」
武上の口調が少々間延びしたものになった。
「あなたが自慰を行う分には自由であろうと思います……ですが、感度の具合ということについては……俺の方でも定期的に確認する必要があるかと」
言葉を選ぶようにしながら、武上は所々間を置きつつそう答えた。
「ん、そういうことでしたら」
櫻井は少々の優越感を覚えた。何せこの男の一辺倒な受け答えを崩せたのだ。
「少なくとも、3日後はお伺いさせていただきます。休日というのは、1日お時間を頂いてよろしいということでしょうか」
「まぁ、それでもいいですけど」
「それでは当日、連絡をいただき次第俺が向かう形でどうでしょうか」
「えぇ、大丈夫です」
「恐れ入ります、それでは本日は失礼いたします」
「はい、お疲れさまです」
武上は持参したタオルで手足を簡単に拭くと、身なりを整えて出ていった。扉が閉まるなり、深く長い溜息を吐きだす。
武上征爾、煮ても焼いても食えない男だと思っていたが、動揺を誘うまでは出来た。それだけでも収穫はあっただろう。
『あなたと同じです』
再び達成感に浸ろうと思い返したその時、先の武上の言葉が気持ちに影を落とした。
自分と同じ、確かにそうなのかもしれない。
武上に対し、そこはかとなく感じていた嫌悪感。
その正体を櫻井は掴んだような気がした。
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