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後ろを振り返りたくなくて
目の前にいるカウンター越しの遥さんを見ると
少しバツが悪そうに見える。
いらっしゃいませの声は
普通だったのは流石だ。
でもそんな遥さんでも
こんな表情にさせる相手は
もう確定であの人だった。
「や、やぁ。
連れというかなんというか
紹介するような関係では無いというか。」
動揺するハチ。
僕は目を合わさず
この場を立ち去ろうと
下を向いて横を通り過ぎた。
ふわっ
「…!!!?」
ガシッ
突然手を掴まれた。
「お前…」
「は、離してください。」
僕はバレないように
精一杯の裏声を出した。
「…那央だろ。」
呼ばないで。
僕の名前。
呼ばないで。
あなたのその声で。
そんな愛おしそうな声で呼ばないで。
勘違いしてしまう。
「離し…」
振りほどこうとするが
力で勝てる訳もなく
「俺が間違えるわけねぇ。
懐かしい匂い。那央なんだろ?」
匂いって犬かよ。
「会っちゃいけねぇってわかってるけど
お前に伝えたかったことがある。」
やめて。
何も聞きたくない。
「お願い…離して。」
もうバレたから地声で必死に訴える。
ハチも心配そうに見ている。
「離したらお前消えるだろ。」
消えるよ。
だって僕ら会っちゃいけないから。
「志生(しき)…」
久しぶりに呼ぶ名前。
ずっと呼びたかった名前。
「少しでも会えて嬉しい…。」
そう言うと志生の力が少し緩んだ。
今だ。
勢いよくすり抜けて扉へ向かった。
「…っ!那央!!」
志生が叫ぶ。
思わず足を止めてしまった。
「俺、こっちで暮らそうと思ってる。」
その一言を遠くで聞きながら
僕は走った。
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