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第三章 一人ぼっちでも勇者と名乗れば勇者#02
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かくして、自称勇者のバイト大作戦が始まったのである。
そして何度も言うが、そうと決まったらカインは本当に早かった。
その日のうちに次々とバイト先を決めて歩き、驚く事にもうその場から働き出した。
ある時は市場の売り子。
「いらっしゃいませー! あ、お兄さんこれいかがっすか! そこの奥さん! これ今朝獲れたばかりの新鮮な魚なんですよ! 今日の食卓にぴったりですよ!」
またある時は居酒屋の店員。
「お待たせしました! オムライス一つと生ビール二杯です! すみません! オムライスもう一つ追加だそうです。あと二番と五番テーブルに海鮮サラダと肉の丸焼き、コーヒーと生ビール二人ぶんお願いします!」
またある時は船の水揚げの手伝い。
「あ、おやっさん! その箱おれ運びます! あっちすよね任して下さい! これはこっちすね分かりました! あ、すいやせん先輩! それ倉庫にお願いしやっす!」
またある時は野獣の討伐。
「うおりゃああああ! 死に晒せええええ!」
「ギャシャー!」
ドスッドバッザン!
身の丈よりもなん十倍もある大蛇は八つ裂きになり、四方に散った。
「はぁはぁ、よっし倒した! 依頼完了っと!」
全身から流れ出る汗を拭い、そのまま他の野獣の討伐へと大剣を片手にひた走る。
ちなみにさっきの大蛇は焼いて食べると旨い。
「まっだまだあー!」
その日森のあちこちから少年と野獣の叫び声が木霊し、翌朝、怪奇現象として新聞の一面を飾る事になるなど彼らは知るよしもない。
「はぁはぁ、なんかひっさびさに勇者っぽい事してる気がする」
そしてまた走り出す。
「うおりゃああ! 金じゃ金ー!!」
ズザンッ!
「金が必要なんじゃあああああ!!」
ドスッドスッ!
……果たして勇者っぽいとはなんなのか、これはもう尋ねたら多分負けである。
――すっかり日がくれて、全ての依頼を片付け終わったカインはボロボロ或いは土草や汗やらでどろどろになりながら宿屋へと戻った。宿屋の主人はぎょっとして、慌てて風呂をすすめる。
素直に言うことをきいて汗も疲れも全て洗い流し、ようやく寝台へと身を預けた。
勿論いつものように素っ裸で。
これを魔王が知ったならきちんと服を着て寝ろと怒るところだ。
「はぁ~疲れた、っイテテ」
野獣との死闘で出来た傷がひりひりと痛む。
「う、うう。い、忙し過ぎて、手紙書くのも一日一通が限界なんだけど……魔王までの道程が遠いぜ」
寧ろそれで全く問題ないのだが、と言うかこの状態で毎日必ず一通は出しているというのが驚きの執念である。
カインはもの凄く残念そうにしながらも、ほどなくして眠りにつくのだった――。
その夜、魔王の元に一通の手紙が届いた。
「なんだ? 紙飛行機か」
ふらふらと頼りなく揺れながら魔王の手の平へと着地する。
それを開いてみれば
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おやすみ
by勇者
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「…………最近こんなのばっかりだが、何をしているんだあれは」
やれやれと肩をすくめる魔王の心中は、残念だがカインへ届く事はない。
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