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後悔
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50か60歳くらいの女性が叫んでいた
それはもう嗚咽に近かった
「あぁ…どうして…どうしてっ…!!」
周りは一面真っ白に包まれた部屋で
ただ1つだけあるとしたら
壁と同じくらい真っ白な布をかけられ
壁と同じくらい真っ白になった
あいつがいた
その女性は泣いていた
それはもう長い間
俺も側に寄りあいつを見た
不思議と
何も感じなかった
悲しいも、つらいも、罪悪感も
「この子が、苦しんでる時…何処にいらっしゃったんですかっ、」
その女が真っ赤に腫れた目で俺を見た
「公園にいました」
「喧嘩をしていたと、聞きましたっ、
理由をお聞きしても…?」
「俺が…嫌いだと言ってしまったんです
愛していたこと自体が…間違いだったと
言いました」
震えていたと思う
全身が
何も感じないくせに
「怖かった、でしょうねっ、息もできなくなって…」
「すいませんでした」
「苦しかったわよね…ごめんね…
ママが気付いてあげられなくてっ、
ごめんねぇ…」
母親があいつの頭を優しく撫でた
俺もあれくらい優しく撫でていただろうか
思い出せる記憶は最後に泣いている姿だけ
神は永遠に罪を背負えと言っているのだろうか
その場に留まるのは空気が悪くて部屋の外に出た
吸ったことのない空気が体を犯す
冷たくて重い空気
ただどうしようもなくて家に帰った
いつも見る扉の前に立って止まった
この扉を開けたら、いつもの様に出迎えてくれるんじゃないのか?
あれは、別人なんだ凄くそっくりな別人だ
ドアノブにかける手は打って変わってしっかりとしていた
ガチャンと音を立てて扉が閉まった
「ただいま」
あいつの靴もある
家にいるんだ
今頃夕飯を作ってくれているだろう
口角が上がった
それでも
部屋に入ってもトイレに行ってもお風呂を探しても
どこにも人の気配は無かった
苦しんでいたであろう痕跡だけがくっきり残って俺の心を締め付けてくる
「どこに行ったんだよ…!」
連絡を取ろうと机にずっと置いてあった携帯を開けた
【着信履歴 13件】
着信元は全部一緒だった
「な、んでだよ、なんで…」
あの時携帯を持っていれば気付けたのか?
あの時ちゃんと寄り添っていたら何かが変わったのか?
終わりのない疑問が頭を抑え込む
死体安置所にいたあいつの姿がずっと深く頭に残る
どうしたら、良かったんだよ
『ずっと一緒にいたいなー』
『んだよ。かわいいな』
『ずっとそばにいてくれる?
こんなに生きることが幸せって思えたの初めて』
『ずっーと傍にいるよ。
お前が離れようとしても俺が放さねぇ』
『…ほんと?』
『指切りでもするか?』
『する!』
静かな部屋に着信音が響いた
俺はすぐに出た
携帯をなくしてしまったあいつだと思ったから
「もしもし警察ですが…」
内容はあいつの遺品を警察署まで取りに来てほしいということだった
俺にはもう逃げ場がなかった
警察署に着くと疲労した様子の人が中に案内してくれた
「こちらが亡くなった時に持っていたものです。
そこまで多くはありませんが、
これで全部です」
浅いかごには携帯と指輪そしてあいつが気に入っていた熊の便箋があった
「指輪は手紙の中に入っていたんですが調べる為に出してしまいました
すいません」
「いえ、ありがとうございます」
痛かった
どこが痛いのかもわからないくらい
痛かった
帰り道あの公園のブランコに腰掛けた
あいつが好きな見た目には似合わない可愛らしい手紙
ずっと気掛かりだったそれを開けた
便箋の中にはたった一枚
手紙が入っていた
【君が女と遊んでたことずっと前から知ってた
でもそれは君が俺を1番大切に思ってくれての事だって知ってたから何も言わなかったんだ
父親と色々あった時ずっと傍にいてくれてありがとう
君がいなかったら俺はあの時に父親を殺して自殺してたと思う
だから本当に、ありがとう
俺がパニック障害になってからだよね
スキンシップもとれなくなって沢山君に我慢させたと思う
ごめんなさい
もうお互いに限界だったんだよね
だから俺達ここで別れよう。
本当にありがとう。心から愛してたよ】
「…どんな気持ちでっ、見ればいいんだよ…!!」
手紙の所々にシミがついていて
文字が滲んで見えない
指輪の内側にはお互いのイニシャルが刻まれている
ブランコのキーキーと鳴る音が静かな公園に響いた
あの日見た綺麗な景色はあいつと共に消えていった
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