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センチネルのご飯
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「よーし、やるぞー!」
本部一階のショッピングモール内のスーパーで材料を買い込み、早速サンドイッチを作り始める。
が、急に冷静になった。
(明日のお弁当だよね? 今作る必要なくない?)
ということに。
「それに、センチネルは味覚が鋭いから食堂のレシピじゃないと味を強く感じ過ぎちゃうって言ってた……! どうしよう……」
今更ながら、頭を抱える。
食堂のレシピは、センチネル系能力者専用のレシピ。
(あ、食堂でレシピ教えてもらったりとかできないかな?)
さすがに無理だろうか?
先にスマートフォンで検索してみよう、と某動画アプリを開いてみると、以外にもなかなかの数が出てきた。
やはり悩んでいる人が多いのだろう。
それを見ながら、練習で作ってみた。
味見をしてみる。
実にシンプルな……野菜とハムとパンの味のサンドイッチ。
バターもマーガリンも使わないので、早く食べるのが必須。
「なんか……もさい……」
美味しいのか? これ。
という感想。
しかし、味覚が鋭いのならこのくらい味わい深くないのがいいのかもしれない。
味つけは絶対しないこと、と動画の中の金髪碧眼の料理家が人差し指を立てて注意喚起している。
つまり、これが正解なのだと。
『ミュートやガイドの人はわからないと思いますが、センチネルとパーシャルの味覚が鋭いタイプの人にとって調味料はとても味の濃いものです。自分が紹介しているものは、花ノ宮さんが残したレシピなのですが――』
「え?」
『彼は常々、センチネル系能力者にとっての食事に一番必要なのは、作り手の想い……愛です。美味しく食べてほしい、という願い。なぜならセンチネル系能力者にとって食事は味ではなく、作り手の感情を味わう行為だからです』
「……感情を……」
味は二の次。
もちろん栄養が必要であることは間違いない。
けれど、それ以上に大切なものは作り手の想い。
(……それなら……僕にも作れそうだな)
動画でレシピを確認しながら、ただただ、感謝を込める。
命を助けてくれて、ありがとう。
あなたのおかげで二回も生き延びられました。
ずっとお礼が言いたかった。
言わせてくれてありがとう。
再会できたことも嬉しい。
繰り返し繰り返し、美味しく食べてもらえますように、という気持ちも込めて――
「できた! って、できたところでだよ!」
完成したサンドイッチをお弁当箱に詰めたものの、最初に戻る。
一人ツッコミを入れてから、手持ち無沙汰になってしまった。
明日手渡すには、日持ちするものではない。
(白虎ビルの上階……)
いやいや、と首を振る。
さすがに気持ち悪いだろう、彼からすれば昨日の夜が初対面の男に手作りサンドイッチを持ってこられても。
ふと、時計を見ると夕方の五時。
うーん、と考えた結果、弁当を袋に入れて上着を着て受付階に向かった。
「あら?」
「あの、すみません、これ……華城さんに渡していただけないですか?」
「お弁当ですか? お約束をしていますかね?」
「はい。本当は明日の朝食っていう約束だったんですけど、練習で作ったら消費期限というか……明日まで置いておけないみたいで……」
「ああ、なるほど。わかりました。夜勤に行く前に声をかけて確認してみます。ただ、食品をお預かりする上でいくつか注意点がございまして――」
と、受付のお姉さんが注意点を話してくれる。
一つ、長期の預かりは不可。一定期間を預かれない場合は廃棄する。
一つ、食べ物や飲み物には鑑定が入る。毒などの異物混入があった場合は破棄される。
一つ、受け取り拒否された場合は破棄される。約束がない場合は相手の都合を最優先される。
「おおまかにこの三つです。他にも臨機応変に対応しますので、お約束がないと確実にお相手に届けられるとは言い難く……そこを了承していただきたいのですが……」
「あ、はい。……それは……そう、です、よね……」
受付のお姉さんの困った表情。
でも言われていることは至極当然のこと。
「それは、当たり前ですよね……!」
「え? あ、は、はあ……」
「すみません! あ、明日渡すお弁当のこととか……ちょっと研究してみます! 約束は明日ですし! それじゃあ!」
「あ、は、はい」
受付のお姉さんに頭を下げて、白虎ビルの方に走る。
本当に――
(迂闊〜〜〜!)
◇◆◇◆◇
二時間後、本部ビル五十階、受付。
カードキーをカードケースに入れて、烏丸に預ける。
戦闘でカードキーを五回ほど破壊してしまった。
それ以来、バディとなったガイドに預けるようになったのだ。
「あ、華城さん」
「?」
「これ、今日きたレイタント――夜凪さんからお預かりしました。明日の朝ご飯を練習していたら、作り過ぎてしまったようです」
「……」
無言で近づいてくる華城。
受付からお弁当を受け取る。
「鑑識の結果、特に異物もありませんでした。いかがいたしますか?」
「食べます」
「わかりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
「ン」
受け取ったお弁当を持って、エレベーターに乗る。
隣に腕を組んだ烏丸が壁に寄りかかってによによとしていた。
「早速作ってくれたのか。夜凪さん優しいじゃん」
「ン。夜食助かる」
「だな。しかもセンチネル系能力者用の飯って、なかなか弁当にしてもらえないもんなぁ」
「ン」
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