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明治二十六年、晩秋の天長節。
燕尾服に身を包んだ近衛は心配そうな顔で那由多を見つめた。
昨年の同じ日、那由多は暴漢に襲われた上、佐之助と別離した。佐之助に頼まれ、襲われたのを知った事も佐之助に会うた事も内密にしている近衛は、こんな日に那由多を一人にする事が心苦しくてしかたなかった。
なれど今宵の舞踏会は天長節の祝賀行事の一環。近衛家の嫡出子な上、宮内省勤めの近衛が欠席するのは難しい事だ。
「私なら平気で御座います故、その様なお顔を為さらないで下さいませ...」
近衛を見上げ那由多は眉を下げる。笑うてみたものの上手く笑えているかどうか。佐之助に会えなくなってもう一年経つのだなと、近衛の燕尾服姿を見たらあの日の悲しみが舞い戻ってきた。
唯一の友であり、兄の様に慕っていた。なれどそう思うていたのは私だけだと、あの日佐之助にそう言われ、それでもこの一年、勝手に友だと思うてきたが、やはり思い返せば悔いるばかりで。
あの日佐之助に会いに行かなければまだ友でいられたのやもと詮無い事を思う。
【 もう気付いているだろう、逢いたくねぇんだよお前に!お前が此処を出て、漸く面倒事から解放されたんだ!俺はもうお前の金剛じゃねぇ!!お前の面倒を見るのはもううんざりなんだ!!二度と此処には来ないでくれ、】
佐之助に言われた言葉が嫌にはっきりと思い出され胸が軋む。それでも近衛に心配を掛けてはいけない、笑んでお見送りしなければと那由多は小さく息を吐き、近衛の腕に手を添えた。
「さぁ、遅れては事です。行って下さいませ」
その笑みに近衛の胸は絞られる様に痛む。那由多にとって佐之助は掛け替えのない存在で、まだまだ佐之助を失った悲しみの色は深いのだろう。
それでも自分が不安げな顔をすれば那由多は一層無理をするだろうと、近衛はふわりと那由多を抱き締めた。
「成る丈早く帰る」
言うて背を擦ると離れた近衛は那由多の両頬に唇を寄せた。
その異国の挨拶に那由多はくすくすと笑い、「唇にも下さいませ」と顎を上げてねだると唇を摘まれれた。
「口づけしたらより行きたくなくなる」
「ふふふふ、では今日は我慢致します」
そう言うてみたものの、唇と瞳を行ったり来たりねだる視線を向けると近衛の唇が近付いてくる。
なれど口づけを下さるのかと期待して私が唇を寄せようとすると、近衛は少し身を引いた。
「ふふふ、もう、意地が悪い...」
「はは、あまりに可愛いかったでな、つい」
「許せ」と笑うた近衛は私の唇を二度三度啄むと口づけを深めてくれた。その唇の甘美な事。遅れては事だと思うているのに、心裏腹、近衛の首にするりと腕を回し舌を絡めた。
「旦那様、遅れますよ!お戯れは戻られてからになさって下さいまし!」
扉を叩く音と共に女中のトシの声が響き、二人でくすくす笑う。扉は閉まったまま。なれどあの言いようでは中で何をしていたかトシにはおおよそ見当がついていたのだろう。
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