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「...那由多、去年言うた事を覚えているか?何か思う事があるのなら話して欲しい」
ソファーの上、何時もの近しい距離で覗き込まれ、一度目を伏せたものの、私は近衛を真っ直ぐ見つめた。
去年近衛は、自分も情けない所も見せていく故、私の胸の内も晒して欲しいとおっしゃられた。ずっと共に暮らしていくのだから、互いに飲み込むのでは無く何でも話していこうと。それがどんなに嬉しかった事か。
「もちろん覚えておりまする。...篤忠様から知らぬ香りが致しましたので、妬いてしまいました」
近衛の目は人の心を見通す目。隠すなど土台無理な話しだと浅ましい自分を晒した。
不安に心苛まれたであろうと思えば可哀想だが、妬かれたと聞けば気分は良い。気を配ってやれなくて相済まなかったと詫びると、首をふるふる振った那由多が「ダンスとはどういった舞なのですか?」とまだ不安げな顔で問うてきた。
言葉で説明するのは何とも難しいなと考えていると、ふと高松ご夫妻の姿が頭に浮かんだ。お二人は終始楽しそうであった。
ひょっとすると、愛しい者と踊れば面白くないダンスも違うてくるのやも知れぬなと考え、近衛は那由多に手を差し出した。
「おいで。一緒に踊ってみよう」
「えっ!?あ、篤忠様っ、私には無理で御座いますっ、」
「良いから。ほら、早う私の手を取れ。さぁ、」
困った顔をしていた那由多を急かすと、手を添えた那由多はくすくすと笑うている。左手を肩に添えさせ腰をぐっと抱き寄せると「異国の文化は何かと距離が近う御座いますね、」と困った顔をしていた。その顔が余りにも愛らしく額に唇を落とす。ダンス云々でなく、愛しい者を腕の中に抱けば、それだけで楽しい気分になれるのだなと那由多を見つめた。
「ふふふ、この様な事もなされるのですか?」
「いや、これは那由多にだけ特別だ」
近衛の言葉に気持ちが凪いでいく。何を不安に思うことがあったのだろうと知らぬ香りも気にならなくなっていく。
ワルツなるダンスを教えてくれるという近衛に倣い、脚を動かし真似てみる。
「前、横、閉じる。そしたら今度は、後ろ、横、閉じる。これが基本の動きだ。」
今度は膝を入れてみようと、一で出した脚の膝を曲げて二で出した膝を伸ばして三でそのまま足を閉じる。それの繰り返しだと言われ、「いち、にー、さん、いち、にーさん、」とゆるりと言いながら動く近衛に合わせて言われた通りの事をしてみるも何とも。
「顔を上げて」
「なれど、足を踏んでしまいそうで...、」
「那由多は軽いから大事ない。いっそ抱えて踊ろうか?」
「わっ!?篤忠様、降ろして下さいませっ、」
「ははは、ほら、どうだワルツは、」
言うて近衛は那由多を抱き上げたままステップを踏んでいく。そんな近衛の首にしがみ付き、那由多は耳元で囁いた。
「ふふふふ、これでは覚えられそうもありませんが、毎年こうして踊って下さいませ。」
あんなにもつまらないと思うていたダンスがこんなにも楽しくなるとはよもや思わなんだ。那由多を降ろし戯れながらワルツを踊れば、足を踏まれてもそれは笑いの種であった。
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