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ブッシュ・ド・ノエルは、クリスマスの薪という意味の、木を模したケーキのことである。
「はあ!? なんでクリスマスに会合なんかすんだよ!?」
「クリスマスだからというわけでなく、年末はいつもやってんだろうが」
大悟と迎える初めてのクリスマス。24日と25日は邪魔されないため、事前に休みを取ろうと、シラサカは社内のミーティングスペースにレイを呼び出した。だが会合に出席が決まっていると一刀両断されてしまったのである。
「百歩譲って24日は平日だからいいとしても、25日は土曜じゃねえか!?」
「裏の仕事に土曜も日曜もねえ。それに、これはおまえが言い出したことだぞ。クリスマスは世間が騒がしくてひとりは寂しいってな」
確かに去年まではそうだった。クリスマス近辺に女性を誘うと変な期待をかけられるため、この時期に遊ぶことは避けていたし、最近はそんな遊びすら面倒になり、会合という名の飲み会に参加して気を紛らわしていたから。
「それはそうだけど、今年はハニーがいるし」
「だったらもっと早く言え。おまえが不在になるから、24日は藤原家、25日は松田先生のところでクリスマスパーティーだと聞いているが」
「何それ、聞いてない!?」
「だってぇ、サカさん、毎年クリスマスはオールナイトで飲み会でしょ」
ひょっこり顔を出すマキ。ミーティングスペースは入口にあり、パーティションで区切られているだけのため、大声を出すと丸聞こえなのだ。
「カナカナが寂しくないようにって、カズ君と相談して決めたんだよぉ」
ちなみに、マキはカズミのことをカズ君と呼んでいる。
「いや、今年はハニーとふたりきりのクリスマスをだな」
「色々準備しちゃったしぃ。カナカナも乗り気だったよぉ」
大悟が乗り気という話を聞き、ふたりきりのクリスマスを過ごしたいと思っていたのは自分だけなのかと、シラサカは落ち込んだ。
「けど、クリスマスまでまだ時間があるだろ」
「あと二週間じゃん。ケーキとかチキンとか予約したよ。まあ、サカさんが来れるなら時間早めてもいいけど」
マキはチラリとレイを見た。彼は腕組みをして考え込んでいる。
「25日の会合は俺が代わりに行ってやれるが、24日はボスも出席するから無理だぞ」
レイが言うように、ボスの花村が顔を出すのなら、シラサカが欠席するのはマズイ。
「24日はどうあっても動かせねえってことかよ」
「一日代わってやるんだから感謝しろ」
クリスマスが空いたのならよしとするのだが、シラサカは別のことが気になっていた。大悟からそういった話が全く無かったから。
浮かれてるのは、俺だけなのかなぁ。
大悟と出会うまでは、クリスマスなんて興味がなかったし、普通に仕事(勿論裏)もしていた。けれど、大悟という恋人が出来てからというもの、シラサカは世間一般のイベントが待ち遠しくて仕方がない。クリスマスもお正月も愛する人とふたりで過ごすとなると、とにかく浮かれてしまうのだ。
ミーティングスペースを出たシラサカは、黙々と入力作業を続ける大悟の元へ向かった。既に期末試験も終わり、二学期の終業式まで学校は休みである。よって、今日も朝からシラサカと共にハナムラコーポレーションに出社していた。
「ごめんね、ハニー。クリスマスイブ、一緒にいられなくて」
「大丈夫だよ。事前に聞いてたから」
ミーティングスペースでのやり取りは筒抜けだったらしく、大悟は振り向いて笑ってくれたのだが、シラサカとしては「事前に聞いてた」という言葉にカチンときてしまった。
「クリスマスパーティーのこと、なんで俺に言ってくれなかったの?」
自分とクリスマスを過ごしたかった。その一言が欲しくて、シラサカは大悟に問いかける。
「外せない会合だって話だったから」
「それはそうかもだけど。俺が言わなきゃ、25日だって参加になってたし」
「Kとはいつも一緒だから平気だよ」
本当にそうだろうか。いつぞや、会合三昧だった頃みたいに、大悟はシラサカに遠慮しているのではないだろうか。
「クリスマスなのに、ハニーは俺がいなくても平気なの?」
思わず本音がこぼれ出た。しまったと思ったときには、大悟は不機嫌になっていた。
「それがKの仕事でしょ」
仕事の手を止め、大悟は立ち上がった。
「でも、ハニーと初めての──」
「いつも一緒にいるんだから大丈夫。KはKの仕事をしてよ!」
いつになく冷たい言葉を投げかけられ、シラサカはよりいっそう落ち込んだのだった。
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