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そうこうするうちに、クリスマスイブの朝を迎えた。
「おはよ、藤原、いつもの電車に乗れなくてごめん!」
高校に通い出した当初こそ、車でKに送り迎えしてもらっていたが、今は藤原と電車通学になっている。いつも駅で待合せだが、今日は一本遅れになったのだ。
「大悟、おはようさん。気にしてへんで。ケイちゃんのことやから、朝からがっついたんやろ。ケイちゃんが一日予定満載なこと、あんまないからしゃあないわな」
まるで見ていたかのように、藤原は状況を言い当てた。
「なんでKが今日予定満載って知ってるの?」
「ナンバー3から聞いたに決まってるやん」
ちなみに、藤原はレイのことをナンバー3と呼んでいる。
「なんでレイに聞いたの?」
「細かいことは気にせんでええ。学校が終わったら、帰って着替えて買い出しに行くで」
大悟の疑問に答えることなく、藤原は話題を変えた。
「色々行かなあかんからな、今日は大忙しや。後でマッキーが車で迎えに来てくれることになってん」
「了解。着替えたらそっちに行くね」
その後、大悟は藤原と終業式に参加した後、教室に戻り、ホームルームで通知表を受け取って二学期を終えた。帰りは藤原と同じ電車で帰路につき、お昼前には自宅に戻ってきた。
「ただいま」
Kがいないことはわかっていたが、彼と暮らすこの部屋が大悟の居場所になったこともあり、ひとりでもつい口にしてしまう。
すぐさまベッドルームに入り、制服を脱ぎ、私服に着替える。そこで朝食の片付けがまだだったことを思い出した。
まだ時間あるよね、洗っておこう。
シンクに置かれた食器を洗っているうちに、大悟の脳裏に大昔の光景が蘇ってきた。
***
(ダメよ、大悟。ケーキはお父さんが帰ってきてからね)
料理のレパートリーが限られる母だが、片付けは好きだった。家の中はいつもキレイにしていたし、洗い物をためておくこともしなかった。
(えー、早く食べたい。それに、なんで今年のケーキは丸くないの?)
(これはね、ブッシュ・ド・ノエルっていうのよ)
亡き母が買ってきたクリスマスケーキはブッシュ・ド・ノエル。誕生日ケーキは丸型のものと思っていた大悟は、新鮮に思えた。
(ブッシュ・ド・ノエル?)
(色んな説があるのよ。ブッシュ・ド・ノエルはクリスマスの薪って意味なんだけど、樫の薪を暖炉に燃やすと一年中元気で暮らせるとか、厄除けになるとか、恋人へのクリスマスプレゼントも買えない青年が、薪の一束を恋人に贈ったのが始まりという説もあるのよ)
最後のはロマンチックよねと言って、母は笑った。純愛物のドラマが好きで、役柄を演じた男性俳優に入れ込んだりしていたから。
(薪なんかもらったって、嬉しくもなんともないよ)
だが、幼かった大悟にはどれも興味がなかった。電気がある日常が当たり前だったから。
(そうね、今の時代にはそぐわないけれど、気持ちがこもっていれば、なんでもいいってことよ)
思えば、それが両親との最後のクリスマスになったが、チョコレート味のケーキがとても美味しかった記憶がある。
***
「ブッシュ・ド・ノエル、食べたいな……」
今まで忘れていたから仕方のないことだが、今日のパーティー用に予約したケーキは丸型のものだった。
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