アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑤
-
「そのわかりやすい仏頂面、なんとかしろ」
年に一度、ハナムラの主要メンバー三人が出席するこの会合は、特別な意味合いを持つ。ボスの花村だけでなく、シラサカは勿論、レイも参加する。レイの言いつけで、シラサカはスリーピーススーツに着替えさせられた。
「向こうに行ったらちゃんとするってば。てか、誰だよ、クリスマスに会合するとか言い出したバカは」
レイの運転で会場のホテルへ向かっていたが、助手席のシラサカは不機嫌だった。
「おまえだろ。年明けだったものを、正月明けに集まるのは面倒だ、クリスマスにひとりが寂しいと言って変更したんだろうが!」
全てレイの言う通りであったため、シラサカは窓の外の景色を眺めた。夕暮れ時の街は、クリスマスのイルミネーションが煌めき、人々もどこか浮き足だって見えた。
あーあ、俺もハニーとクリスマスデートしたいなぁ。
「来年はどうする? 年始に戻すか?」
黙り込んだシラサカに言葉をかけるレイ。
「もう来年の話かよ」
「時期が時期だからな、一年前から会場を予約しておくんだよ」
「クリスマスじゃなかったら年内でいい。年始は学校始まるまで、ハニーと一緒にいたいから」
ここぞとばかり、シラサカはわがままを言いまくった。
「カナリアは春に高校卒業して、ハナムラの一員になっているはずだぞ」
言われてみれば、大悟は高校三年生だった。ハナムラコーポレーションへの就職が内定しているため、後は卒業を待つだけである。
「そうだった、忘れてたや」
「余程の事がない限り、留年はないと聞いている」
「となると、今年は高校生最後のクリスマスか」
今日はクリスマスイブで、クリスマス本番じゃない。だが、高校生の大悟と過ごす時間はあとわずかなのだ。
「やっぱり、ハニーとクリスマスイブを過ごしたい!」
シラサカはレイに訴えたが、彼は返事をしなかった。
「ねえレイ君、なんとか──」
「てめえはてめえの仕事をしろ、文句言うのはそれからだ!」
シラサカのゴリ押しを遮るレイ。それ以上言い返すことなど出来ず、シラサカは黙り込んだ。
***
世間的に知られていなくとも、後ろ暗い商売をしている人間は結構いる。クリスマスの会合はホテルの一番大きな宴会場を貸し切っての立食パーティーで、シェフがその場で調理をし、温かい食事を提供する。その費用は全てハナムラ持ちのため、毎年楽しみにしている人達も多いという話だった。
「シラサカさん、今年もお世話になりました!」
「来年もどうぞよろしくお願い致します!」
一通り挨拶を終えたので、おそらく最後だろうか。彼らはとある暴力団幹部の面々だ。その昔、仕事で組長の命を救って以来、シラサカとハナムラに恩義を感じてくれており、何かにつけて協力してくれる。
「あ、うん、来年もよろしくね」
「ところでシラサカさん、組……じゃなかった社長から見合い写真を預かっておりまして」
暴対法の施行にあわせ、表向きはハナムラ同様にダミー会社を立ち上げており、組長→社長となっているが、彼らは古参のためか、今も昔の呼び方をしているようである。
「毎年言ってるけど、辞退ね」
こういう場に出席すると、必ずといっていいくらい、こんな話が出てくる。もう四十手前だというのに、シラサカの見合い話は尽きることがなかった。
「そこをなんとか、会うだけでも出来ませんかね」
「てか、なんで毎年俺なの? レイの方が若いし、結構有望だと思うけど」
「レイさんには断られておりまして」
「俺も断ってるじゃん」
「そうなんですが、シラサカさんは毎年辞退という形でしたので……」
しどろもどろになる幹部達。この様子ではレイはきっぱり断ったようである。
「じゃあ今年からきっぱり断るわ。俺にはハニーがいるから」
「シラサカさん、お相手いらっしゃるんですか!?」
シラサカのハニー発言に、幹部達はひどく驚いたようだ。
「うん」
「ご結婚は?」
「あー、ちょっと前にした。内々だけでね」
会社でウェディングパーティーをやったのは事実である。
「でしたら、披露宴は!?」
「そんなのやらない。可愛いハニーを他の人に見せたくないもーん」
相手が同性かつ年下の高校生だなんて言ったら、彼らは腰を抜かすかもしれない。変な噂になるのも嫌なので、適当に交わしておく。
「お話し中、失礼するよ。シラサカ、ちょっといいか?」
幹部達とシラサカが朗らかに話をしてるところに、なんと花村とレイがやってきた。幹部達はペコペコと頭を下げて、その場を辞した。
「お疲れさまです、社長」
シラサカも挨拶をし、小さく頭を下げた。
「急ぎの仕事だ。今すぐ行ってくれ」
またずいぶんと急であるが、花村直々の頼みとなれば、断ることなど出来やしない。
「わかりました。それで誰を?」
花村が視線を向けると、レイは透明のファイルを差し出した。
「てめえにしか出来ない案件だ、さっさと片付けてこい」
ファイルの中身を見て、シラサカは目を丸くした。
「これって!?」
クリスマスケーキの予約票が入っており、引取場所はシラサカ達がいるホテルのカフェである。
「おまえの仕事は終わった。後は好きなようにしろ」
そう言ってレイはニヤリと笑う。
「で、でも」
今は年に一度の会合の真っ最中である。組織のナンバー2であるシラサカが抜けると、変な噂が流れかねない。
「私から直々にということであれば、皆、詮索はしない。もし聞かれたら、個人的な依頼だと言っておくことにするよ」
そう言って、花村は笑う。最後にレイはこう言ってシラサカの背中を押した。
「おまえのパーティーは終わった。明日も欠席でいいから、カナリアを思いきり甘やかせてやれ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 8