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傷物の君 七
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今日は箸で食べさせないでいいか。
立ち上がると、俺はキッチンにある引き出しからフォークをとって、喜津愛に渡した。
「喜津愛、今日はこれで食べな」
「うん」
明日にでも箸の持ち方をマスターできるものを探して買っておこう。
俺は喜津愛の皿を手に取ると、とりあえずおでんの具をひとつずつそこに入れた。
フォークを餅巾着にさして口に入れると、喜津愛は目を丸くした。
口からもちが伸びている。
「ひふにい」
「ん?」
真にいって言っているのか。言えていないし、食べながら喋っちゃうところが年相応な気がして可愛らしいな。つい口角が上がった。
「これなに?」
え?
「おもちだよ」
年明けに食べたんじゃないのか?
「喜津愛、おしるこって知ってるか?」
「……何それ?」
「じゃあお雑煮は?」
「わかんない」
頭に血が上って、俺はついテーブルを叩いた。
一体どれだけ、喜津愛の親は面倒を見ていなかったんだ。
「真にい?」
喜津愛は不思議そうに、俺の顔を覗き込んだ。
喜津愛の前で怒っても仕方がないか。喜津愛の反応を見て、俺は直ぐに我に返った。
「……ああ、ごめん。もちが喉に詰まるとよくないから、すぐに飲み込まないで、きちんと噛んで食べろよ」
「うん!!」
俺は喜津愛の頬を触った。
顔にはなんの傷もない。手にも足にも、傷跡があるわけじゃない。
……身体は細い。でも、決して拒食症なわけでもない。
はたから見たら健全な小学生に見えるのに知識があまりに乏しい喜津愛を見ていると、涙が溢れそうだった。
「美味しいか、喜津愛」
「うん!」
まるでリスが頬袋に食べ物を食べるかのように頬を膨らませて、喜津愛はゆっくりとおでんを食べた。
そんな喜津愛を見て、俺は明日は仕事を休むことを決意した。
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