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傷物の君 九
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「喜津愛、後でオレンジジュース買おうか」
「うん、飲みたい!!」
目を見開いて、喜津愛は叫んだ。瞳がまるで、夜空に浮かぶ星を映しているかのように輝いている。可愛いな。
「よし。じゃあご飯を作るから、待っててくれるか?」
「わかった!」
俺を見てから、喜津愛はテーブルの前にある椅子に腰を降ろした。
クラムチャウダーが入った底の深い皿と、白米が入った茶碗をテーブルの上に置いた。同じものをもう一つずつと、自分の分の箸と喜津愛用のスプーンを用意して、テーブルに置く。
棚からコップを二つとって、それぞれに麦茶を入れると、俺はそのうちの一つを喜津愛に渡した。
「お待たせ。食べようか、喜津愛」
コップをテーブルに置いてから、俺は喜津愛の向かいにある椅子に腰を下ろした。
「うん。いただきます」
……ああ、そうだ。これは言えるんだったな。他には何ができるのだろう。
「いただきます」
「あちっ!」
クラムチャウダーを口につけると、喜津愛は声を上げた。熱かったか。
「火傷してないか?」
「うん、大丈夫」
「そうか。ふーって、ちゃんと覚ましてな」
「ふーふー」
喜津愛は素直に、スプーンの中にあるクラムチャウダーを覚ました。聞き分けがいいな。
「真にい、これは?」
「ああ、それはあさりだな。喜津愛、これは何かわかるか?」
底が深い皿の中にあるじゃがいもを端でつまんでから、俺は首を傾げた。
「ポテト?」
「ああ、ポテトだ」
ちゃんと言ってくれたから、かなりほっとした。
よかった、なんでもわからないわけじゃないんだな。
「喜津愛、家では何を食べることが多かった?」
「……その話はしたくない」
下を向いて、喜津愛は首を振った。
驚いた。今までは俺が聞いたことならなんでも教えてくれていたから、急に話したくないと言うとは思わなかった。
よっぽど好きじゃないものを食べさせられたのか?
「じゃあ、家ではいつも何をしてたんだ?」
「……絵本を読んでた。あと、父さんのご機嫌取り。機嫌を損ねたら、飲み物を掛けられたりシャワーでいじめられたりするから」
「……そうか。何てタイトルの本が好きなんだ?」
「わかんない。狐が出てきてた。あと、イノシシ」
その言葉を聞いただけで、直ぐに何か分かった。
「あぁ、狐とイノシシがものを盗もうとしたり、泣いている女の子を助けようとしたりする奴か?」
「うん。……新しい本は買ってもらえなかったから、そればっか読んでた」
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