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侮るなかれな破壊力
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―― すぽっ
僕の頭に乗せられたもの、それは真っ黒なウサミミのついたカチューシャだ。
「ぉおおおお」
地鳴りのような低い歓声が、男子校2年A組の教室内に響いた。
茶色くて猫っ毛、ほわほわしている僕の頭。
大きな茶色の瞳を彩る長い睫に、ぷっくりとしたツヤツヤな唇。
そんな僕から、真っ黒で長い耳が生えれば、そりゃ可愛いに決まっている。
「な? な? 絶対ぇ似合うと思ったんだよ!」
自慢げなニヤけ顔で、どうだと言わんばかりにふんぞり返る槙。
僕は頭に乗せられたその耳をむんずと掴み、荒く外す。
カチューシャを持ち直し、したり顔で机に腰掛け僕を見やる槙の頭に乗せ直した。
「ぉっ? ぉお……」
僕の時ほどではないが、無きにしもあらずだと、意外性に声が立つ。
浅黒い肌と短い黒髪に、すっと通った鼻筋と切れ長の瞳。
可愛いというよりカッコいいに分類される槙。
「想像を超えない僕より、槙の方が意外性があっていいんじゃない?」
にこぉっと嫌味ったらしい笑みを向ける僕に、槙は自分の頭を飾るウサミミを指で弾く。
僕は、ウサミミカチューシャとセットになっているクリップのついた真ん丸な尻尾を槙のベルトにつけてやる。
「うん。完璧。槙はバニーボーイ、決定で」
横槍を入れられる前に、びしっと言い切った僕は、動物の耳つきカチューシャや尻尾が入っている段ボール箱を、ごそごそと漁る。
1ヶ月後に控えた文化祭。
僕たちのクラスは、ウエイターが動物の格好をして給仕するアニマル喫茶を開くコトにした。
今は、誰がどの動物になるのか検討中。
手にしたのは、灰色の三角の耳と毛足の長い大きな尻尾。これは、間違いなくオオカミだ。
……槙にウサギを押しつけた後で、良かった。
普通にしていたって人目を惹く槙だ。
オオカミになんてなろうものなら、2度見必至のちょい悪イケメンが出来上がる。
似合いすぎて、洒落にならない。
「ワンコ?」
肩越しに投げられた槙の声に、僕は小さく首を横に振るう。
「いや。オオカミでしょ」
手にした三角の耳を頭に乗せ、ふさふさの尻尾を装着した僕は、凄んでやろうと両手の爪を見せつつ振り向いた。
「がお……っ、っ」
「やっぱ、ワンコじゃん」
ははっと破壊力抜群の顔で笑う槙。
振り返った僕の視界は、ウサミミを揺らす槙の笑顔に埋め尽くされた。
ぅぐっ。ウサギですらカッコいいって、なんなの?
思ったよりも傍にあった槙の笑顔に、気圧される。
ウサギであろうが、オオカミであろうが、ケモ耳槙がカッコいいコトに変わりはなかった。
「ぉ、わっ……」
空気に押され下がった足が、段ボール箱に引っ掛かる。
そのまま箱の上に落ちそうになる僕の腰が、長くふわふわな尻尾ごと、槙の腕に優しく受け止められた。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だし!」
ばっくんばっくんと轟音を立てる心臓の音が伝わってしまいそうで、僕を支える槙の胸を押し、離れようと試みる。
「暴れんな。転けるぞ」
片手だった僕を支える腕が2本に増え、そのまま槙の胸に抱き込まれた。
―― ドッドッドッ
……ん?
この音は、僕の心臓? ……じゃなくない?
僕の心臓も早鐘を打ってはいるけども、ここまで力強くも速くもない。
僕は思わず、抗っていた腕の力を抜き、目の前の槙の身体に耳を押し当てる。
「好きなヤツ抱き締めてんだぞ。……ドキドキするに決まってんだろ」
僕の肩口に顔を埋めた槙が、ぼそりと呟いた。
恥ずかしさを誤魔化すかのように、槙の鼻先が僕の首筋に擦り寄ってくる。
「お前さ、ウエイターすんの止めねぇ? こんな可愛いオオカミ、誰も放っておかねぇじゃん……」
むすぅっと膨れた音が、僕の耳を擽る。
「ウサギなら、お前が言った通り想像の域を出ないけど、オオカミになると…カッコいいオオカミの野蛮さと可愛らしいワンコの愛らしさが同居しちまうっていうか……」
んんっと小さく唸った槙の腕に力が入る。
「オオカミがウサギに喰われてる」
ふはっと笑う声が耳に届いた。
僕の首筋に埋まる槙の顔。
見る角度によっては、ウサギの槙がオオカミの僕の首に喰らいついているように映っているらしい。
「可愛いオオカミと粗暴なウサギ。……滾るな、これ」
何を言い出したのかと声の主へと向けた瞳には、両手の親指と人差し指で四角を作り、ファインダーを覗くクラスメイトの腐男子たち。
「ブロマイド的な物でも作るか……」
「あ、撮影会とかも出来そうじゃね?」
良からぬ方向に広がっていく話に、僕と槙の声が重なる。
「ダメ!」
「嫌!」
このイケメンウサギは、僕のものだ。
愛でる権利は、僕だけのもの。
写真になんて収めさせて堪るかっ。
「この可愛いオオカミは俺のもんだ。撮影なんて許さねぇよ」
既に胸に抱き込まれている僕を、腐男子たちの視界から隠しにかかる槙。
僕は、そんな槙の身体に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
「このイケメンウサギも、僕のものだから。写真なんて撮らせるつもりねぇよ」
僕たちの勢いに、瞬間、ぽかんとする腐男子たち。
一拍の空白を挟んだ彼らは、そっと両手を合わせ、僕たちを拝んだ。
その後、僕たちのケモ耳姿は、喫茶店の運営に支障が出そうだと、耳つきカチューシャは取り上げられてしまった。
ウサミミ槙、撮影しておけば良かった……。
【 終 】
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