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初めて入った家なのに、自分の実家と似た古い家特有の空気のせいか、旭と酒を酌み交わしている間に、緊張の糸はゆるゆるとほどけてしまっていた。
「あのドレスとタキシード、旭さんが、作ったんですか?」
「そう注文品。元々こっちで店やる前は会社で服のデザイナーやってて……って、静樹くん、もしかして、めっちゃ酒弱い? 顔赤いよ」
大丈夫? と隣に座っている旭に頭の上に手を置かれ顔を覗き込まれる。
「大丈夫、れす」
「呂律回ってねぇし、ま、明日用事ないなら潰れても大丈夫か」
旭に勧められるまま杯を重ねてしまい頭がふわふわしている。舌がもつれて喋りはたどたどしいが、それでも、いつもより饒舌だった。
缶チューハイやビールは仕事の付き合いで飲み慣れているので慣れっこだが、日本酒はあまり飲まないので自分のアルコールの限界量を見誤ってしまった。普段から素の自分がバレないようにと、何をするにも慎重に行動していたのに自分らしくない。それもこれも全部、旭が警戒心を抱かせない人柄をしているせいだと思う。
なんだか、久しぶりに、とても気分が良かった。旭とは今日初めて会ったのに、昔からの友人のように気安く話せているから不思議だった。
「こんな田舎で、お客さんなんてほとんど来ないでしょう? 仕事になるんですか?」
「あー、ほら、なぜか潰れない店ってあるだろ? うちもそう。婆ちゃんのお客さん引き継いで、店頭でお直しもやってるのと、今はネットあればどこでも仕事出来るし」
「それなら通勤電車とは無縁ですね。自分は毎日もう大変で」
静樹自身、都会に憧れてここを出て行ったわけじゃないので、自宅で仕事が出来る旭が正直うらやましいなぁと思った。
「ショップにも置いてもらってるから、時々東京の店舗にも顔出すけど、満員電車とは無縁だねぇ。これもまぁ働き方改革かな?」
なぜか潰れない店の真相は静樹にとって、それほど意外ではなかった。旭のプロの仕事を実際目にしていたし、口調は雑なところもあるが、それでも人当たりは良いし対応は大人だ。
「素敵なお店、ですよね」
「あ? 嘘つけよ。見た瞬間こけたくせによ。ま、将来的に自分の店は持つつもりでさ……。独立か転職か考えてた時に、婆ちゃんに店継いでくれるなら家好きにしていいよって言われてさ」
「そうだったんですね」
「あと、思い出の場所に帰って来たかったのかなぁ、心残りっていうか、もう一度会いたい人がいたから」
「会いたい、人?」
「そ、会いたい人」
にこぉと笑って、旭に再び顔を覗かれる。
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