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すれ違う君と僕
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永良(ながら)は勢いよく立ち上がると、僕の胸にメダルを押し付けてきた。
ネクタイとYシャツに、プールの水が浸み込んでいく。
「~~っ!!!! テメェ!!! 厳巳(いずみ)っ!!!!!!!!!! よりにもよって、このメダルを……って、どのメダルでもダメだけど!!! これはもっとダメだろ!!!」
叱ってくる。あの日と同じように。
取り戻そうとしているんだ。
君が大好きな僕を。
「何で今になって――」
「君次第だって、そう言ったはずだよ」
「っ!」
「ねえ、どうしていなくなっちゃったの?」
「それは……っ」
「分かってるよ。ギラギラな僕を取り戻したから、『もういいや』って思ったんでしょ?」
「…………………」
「バカだね」
僕は結果的にギラギラな自分を取り戻した。
でもそれは、君と一緒にいたかったから。
君と馴れ合いたかったからだ。
だから、永良がいなきゃ意味がない。
君がいなければ、僕は元に戻ってしまうんだよ。
君が大嫌いな僕に。
「……ほんとバカ」
声が震えた。不覚だ。小さく咳払いをして調子を整える。
「……っ」
永良の眉間に深いしわが寄る。困惑しているんだろう。
「分からないんだろうね。君には一生」
まるで理解していないから。
僕にとって君がどれほど大切な存在であるのかを。かけがえのない存在であるのかを。
「……それはお互い様だろ」
「は? 何言って――」
「あれれ~? 誰かと思えば、競泳の厳巳君じゃないの!」
男の人が話しかけてきた。
ガッチリとした胸筋に細い腰。まさにボディビルダーといった具合の体型の人だ。ぱっと見30代前半ぐらいか。
この人もまた糸目で優し気な目元をしていた。
「悟行(さとゆき)を取り戻しに来たのか? 悪いがそれは呑めないぞ。こちとら死に物狂いで口説き続けて、よーやく手に入れたんだからな」
ああ、この人は知っているんだ。永良と僕の関係を。
永良から直接聞いたのかな? あるいは自分で調べたのか。
何にせよ分が悪いことに変わりはない。
この人から見たら僕はただの駄々っ子。話しを聞くだけ無駄な人、なんだろうから。
よし。慎重に言葉を選ぶんだ。気を引き締めてその人と向き直る。
「そこまでして永良に執着した理由は何ですか?」
「脚力、身軽さ、それに体幹だな。俺の見立てじゃ、『100年に1人の逸材』だ」
「凄いですね」
「そうよ。そんな子をどっかの誰かさんがきつ~く、きつ~く縛り付けてくれちゃってさぁ~」
「……すみませんでした」
ぐうの音も出ない。その通りであるから。僕は身勝手な理由で永良の才能を潰そうとしたんだ。
「あっ、あの! ちょっといいですか?」
「永良……?」
そう。待ったをかけたのは永良だった。戸惑う皆を他所に永良は続ける。
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