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おやすみのちゅー
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落ち着いた色のカーテンを閉め、触り心地の良い素材でできた蒲団を整える。真っ暗闇の中で寝ることが嫌な主人のために常夜灯に調節したあとは、眠りを誘ういい香りのミストを部屋にかけ、加湿器をつける。執事の岡崎亮太による就寝の準備は完璧であった。あとは主人が寝るだけである。
「蓮様、明日は朝から習い事があるので早く寝ましょう」
背筋を凛と伸ばし岡崎は主人である春日屋 蓮に声をかけた。しかし、近くのソファに座り本を読んでいる蓮は返事もせず、岡崎の方に視線すら向けない。
明らかに聞こえない距離でもないのにである。
そんな蓮に対して岡崎は1ミリも嫌な顔をせずにもう一度声をかけた。
「蓮様、就寝のお時間です」
今度は先ほどよりも少し声量を上げる。
しかし、またもや返事は帰ってこず動く気配すらない。時計の針の音だけが聞こえてくる。
もしかして寝てしまったのかと考えた岡崎はベットの近くからソファの方へ近づいた。
「蓮様、寝ていらしゃるんです・・・っうわっ!!!」
突然の出来事であった。
顔が覗き込めるほどまで近づいた瞬間、寝ているかと思った蓮に岡崎はネクタイを勢いよくつかまれたのである。岡崎は驚き、想像してもなかった行動に対処できずよろめいてソファに倒れこんだ。幸いなことに蓮を押しつぶさないことは出来たが、はたから見れば押し倒しているようにも見えるかもしれない。突然のことに岡崎の心臓は大きな音が立てる。
「なにするんですか・・・蓮様」
声のトーンを落とし主人の突然の行動の意図を尋ねる。
そんな岡崎に対して蓮は少しもわるびれる様子もなく、
「おやすみのちゅーして?」
とネクタイを更に引っ張り顔を近づけて突拍子もないこと述べた。
透き通った黒い目でまっすぐと岡崎を見つめほほ笑む姿は、まだ子供っぽさもあるが大人の雰囲気も感じることができる。
自身が使えている主人にこのようなことを言われたら誰しもが一瞬戸惑うだろう。しかし、岡崎は戸惑うのではなく、心のなかで深いため息をついていた。実はこの要求をされたのは今日が初めてではないからである。
(またか・・・なんで最近こんな要求を・・・)
と考えたが岡崎には実は心当たりがあるのであった。
岡崎の職場であるここ春日屋邸では、岡崎のほかにも従事する者がおりシフト制で毎日多くの人が働いている。その中に最近入った新入りの料理人がいるのであるが、実は岡崎は内緒でその料理人の男性と付き合っているのであった。そんな料理人の恋人と秘密の関係を楽しむことが忙しい日々の業務の中の癒しになっており、先日もシフトが上がる時間であった恋人と誰もいない死角になっている場所でおやすみのキスを一瞬したのであるのだが、不幸なことにその場面をなぜか蓮に目撃されてしまったのである。それからである。蓮から無理な要求をされるようになったのは。
「新入りの浜辺とキスしてたよね?僕にもして?」
「おやすみのチューないとねれなぁーい」
「なんであの人にはできて僕にはできないの?してよキス」
と毎晩毎晩駄々をこねられるのである。
そのたびに岡崎は
「その要求にお答えすることはできません」
ときっぱりと却下した。当たり前である。自分が使えている主人にたとえ主人の命令だとしても不躾なことはできない。それに雇い主は蓮の父親でもあるし倫理的にもアウトである。
蓮にもちゃんと丁寧に説明して却下しているのだがいつも諦めが悪い。そのため、毎回半ば強引にベットに寝かせ、そそくさと部屋を去る。そうでもしないと仕事が終わらないからである。今日もそうしようと体を起こそうとするが、それは許さないと言わんばかりにネクタイを更にグイっと力強く引っ張られた。蓮の整った顔が息がかかるほど近くになる。
「して?」
やっていることは乱暴であるが、行動とは反比例して可愛らしい顔をしてねだってくる。
今日はいつもよりなかなかしぶといかもしれないと岡崎は嫌な予感が心に広がった。大人が子供を押し倒している(ようにみえる)この状況は本当に世間から見ても許されない状況であろう。岡崎は早くこの状況から脱却したく、いつもよりも語気を強めにして拒否をする。
「無理です」
「やだ」
「やだじゃありません、あんまり酷いとお父様におっしゃいますよ」
「ふんっ、じゃあ僕も岡崎が新入りにもう手を出していますよって言おうかな」
「・・・・・・・」
少し脅しをかけたら更に上の脅しをかけられてしまった。小学生だからといってなめていたなと岡崎は適当なことをいった自分を悔いる。言い返す言葉が出てこない岡崎に蓮はさらに追い打ちをかけた。
「お父さん職場恋愛嫌いだからなぁ~どっちかやめさせられちゃうかも
給料良いのに大変そう!!」
と無邪気な顔で悪魔みたいなことをいう子供に引きつった顔を隠すことができない岡崎。
ここでいきなり無職になったら大変である。もし自分じゃなく相手が辞めさせられたらと考えるとぞっとする。春日屋邸で働くことが夢であったと語っていたからである。
「はぁー分かりました。おやすみのちゅーですね」
深いため息をついたあと、とうとう岡崎は腹をくくった。
(たとえ主人の命令でも子供に手を出すのに心めたさはあるけど、ほっぺにキスをするぐらいなら大丈夫かな・・・たかがまだ小学生の子供に対するキスだ。ほっぺにキスぐらいならよくおふざけでやっている人もいるじゃないか・・・)
意を決して蓮を見つめる。蓮はやっと自分の願いがかなえられると期待に満ちた顔でこちらを見つめ返してきた。見つめられると緊張するが、もうなんとでもなれとそっと蓮のほっぺにチュッとキスをした。
岡崎の心臓は心めたさでバクバクであった。先ほどまでは大丈夫だろうという気持ちであったが、やはりどんどん不安が広がってくる。主人として仕えている人にこんなことを、小学生なのに大人がキスをして訴えられないか???など心配と罪悪感でうつむいてぐるぐると頭で考えていた。ふと蓮はどんな反応をしているのだ?と気になりそろりと視線を向けると何故か蓮はきょとんという顔をしていた。
「れっ蓮さま・・・?」
何の反応もないのでどうしたのかと様子を伺うと蓮は眉根をよせ
「なんでほっぺ?口にしてよ」
と少し不機嫌そうに言い放った。
「はぁ!?そんなのするわけないじゃないですか!!!」
「浜辺とは口でしてたじゃん」
「それはっ好きな人同士がやるんですよ!」
「岡崎は僕の事好きじゃないの?」
「いやっ・・・慕ってはおりますけど、恋愛感情ではないですよ!」
というと
「ふーーん」
と心底納得できないというような顔をしている。えぇ決心してせっかくしたのに何でそんな顔するんだ・・・口になんてするわけないだろうと岡崎は不満が広がるも、もう考えるのも嫌なので心を切り替えて蓮を立ち上がらせ強引にベッドへ連れていく。
「さぁもう寝てください・・・おやすみなさい」
ベットに入った蓮の上に蒲団をかけ、挨拶をすませるとそそくさと部屋の出口に向かった。
疲れた、今日はもう早く寝ようと扉のノブに手をかけた時、
「岡崎」と蓮に声をかけられた。
「?なんでしょう」
なにかと振り向くと蓮は不敵な笑顔を浮かべ岡崎の眼をじっと見つめながら
「僕頑張るね」
とだけ言うとベッドへもぐり眠りについた。
(なにを・・・・・????)
と岡崎は思ったが、怖くて聞けず静かに扉のドアを静かに閉めたのであった。
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