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15)再会
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「あ、俺ちょっとトイレ寄ってくわ。ユウタは?」
「俺は大丈夫。ここら辺で待ってるよ。」
「分かった。すぐ戻ってくるから。」
お昼ご飯を食べて休憩して、その後、広めの公園を端まで歩いてきた。駅ひとつ分歩いたようで、帰りはこの出口を出てすぐの駅から電車に乗ることにした。
「あれ?ユウタ?」
不意に呼ばれて振り返る。そこに川藤さんが立っていた。
「なに、眼鏡とか掛けてんの?ああ、変装か?すっかり有名人だもんなぁ。」
「ちがっ!これは、その、違うんです。」
「俺が取ってきてやった仕事のおかげだろが!」
大きな声で怒鳴られて、身体が竦む。
「お前ばっかり、いい夢見やがって!お前のせいで俺は週刊誌も外されて、今じゃ窓際の事務仕事だぞ?!」
「だって、それは、」
「だってもクソもねぇ!お前のっ!お前のせいだ!」
怖い。俺の担当編集だった、俺の恋人だった優しい川藤さんとは、まるで別人だ。
「ユウタ、どうかした?」
「か、さいさん。」
いつの間にか、河西さんが横に立っていて、俺の肩に手を回してくれる。
「なんだ、お前もう新しい男たらしこんだのか、この変態!クソ汚い野郎が!」
川藤さんが通勤カバンを持った腕を振り上げる。殴られると思った。その時、河西さんが俺の前に立ってくれる。ドンっと重い音がした。
「痛っ!」
「河西さん?!」
俺の前に、俺に背中を向けて立っている河西さんの腕に、川藤さんの重そうなカバンが当たった音だった。
「あー、これって傷害ですよね、川藤さん。」
「お前、な、なんで俺のなまえ、」
「聞かなくても分かりますよ。こんな酷い事するの貴方ぐらいしか居ませんから。」
「この!」
「川藤さん。もう止めませんか?これ以上、ユウタに関わるなら、警察にも届けるし今度こそクビにしますよ。」
「お、お前の差し金か!!」
「はい?雑誌部に異動になったのも、事務に異動になったのも全部あなたのせいですよ、川藤さん。」
「てめぇ!」
「殴ってもいいですけど、警察呼びますよ。もう止めてください。二度とユウタに近寄らないでください。」
「ちっ!今に覚えてろよ。」
「か、川藤さんっ!」
河西さんの上着の裾を掴んで、思い切って川藤さんを見る。川藤さんは驚いた顔で俺を見ている。
「川藤さんは優しくて、俺はそんな川藤さんが凄く好きでした。仕事も沢山ありがとうございました。忙しかったせいで別れちゃったけど、本当に素敵な恋人でした。」
「は?」
「川藤さんが優しい人に戻ってくれたら、その、仕事は分からないけど、新しい恋人は、すぐに見つかると思います。そのくらい、川藤さんは優しくて良い人です。」
涙がポロリと零れた。泣くつもりは無かったんだけどな。
「だから、その、川藤さんも幸せになってください。お願いします。俺はあなたを許すから。」
「……。」
川藤さんは、俯いて、そのまま街の方へ歩いて行ってしまった。ホッと身体から力が抜ける。途端に、身体が震え出した。怖かった。上着の裾を掴んでいた手を取られ、気が付くと、河西さんの腕の中に居た。
「人通りのある所でゴメン。でも、俺、」
「ううん。ありがとう。」
俺も河西さんの背中に腕を回す。最初に俺が気恥ずかしくて手を繋ぐのを嫌がったら、外では必要以上に触れなくなった紳士的な河西さんは、俺を抱き締めるだけで謝ってくれる。そんな所も好きだ。ぎゅうっと抱き締められる。伝わってくる河西さんの心臓の音も、ドクドクドクっと早いテンポを刻んでいる。
「ユウタが無事でよかった。」
「うん。河西さんは?腕、大丈夫?」
「大丈夫。痣になるかもなぁ、くらい。」
「ちゃんと手当てしないとだね。」
「ユウタがしてくれる?」
「うん。お医者さんじゃないから、上手く出来ないかもだけど。」
「いいよ。……本当に無事でよかった。」
しばらく抱き合って、そっと離れる。なんだか恥ずかしくて顔は見れなかったけど、電車に並んで乗って、僕たちの家に帰った。
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