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浮かんだ顔
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次の授業の準備をしなきゃ。
教科書を引き出しから取り出して筆箱を置くと、どうやらチャックが開いていたらしく、ころんと消しゴムが机から転がり落ちる。
「ぁ」
小さく声を漏らして拾おうと屈むと、一緒になって座っていた厷が背を屈めた。
取ってくれるの?
驚いて固まると、厷も少しだけ動きが止まった。
彼の指先に消しゴムが落ちている。
あと少しで触れる、というところでまるで時が止まったかのように二人の動きが止まった。
彼がひとつ息を吐くと、それを拾い上げて机の上に置いた。
それから何か言いたげにこちらを横目で見て。
「大川何してんの?コート取られるぞ!」
ありがとう、と言う前に遠くから声が響く。
その瞬間何も言えなくて、厷の目を見るのも怖くなって俯いてしまった。
「おう…」
彼がゆっくり席を立った。
まだ視線は感じる。
固く結んだ口を開けずに、置かれた消しゴムをそのまま筆箱の中にしまった。
「…ごめん、行こ」
「遅い!」
視線から解放されたのと同時に彼が走り去っていった。
じわりと視界が滲んで、泣かないように下唇をキュッと噛んだ。
するとすぐに足音が教室に入ってくる。
その足は教室に入って近づいてきた。
もしかして厷が戻ってきてくれた…?
そんな淡い期待を抱いて顔を上げると、先程厷を呼びにきた男子だった。
彼は僕の顔を見るなり鼻で笑った。
「何その顔、キッモ。大川が来たとでも思ったん?」
「ぇ…」
「何考えてんのか知らねえけど、もう大川のお荷物になんのやめな?」
…お荷物。
やっぱり僕は、厷のお荷物だった。
言われたくなかった、ずっと思っていた言葉を目の前で、しかも厷本人ではなく第三者から言われた。
我慢していた涙がぼろりと溢れ始める。
「始まったよ…そこがキモいの何でわかんないの?いい加減気づけよ、女みたいにウジウジ泣きやがってキモチワルっ」
それだけ言ってまた走り去って行った。
どうしてここまで言われなければいけないのだろう。
教室にいた他のクラスメイトはこちらを見るだけでコソコソと陰口を始めた。
誰も泣いている僕に声はかけない。
男だから、こんな泣き虫な僕を誰も相手などしない。
厷も今まで僕のこと、気持ち悪がってたのかな。
その愚痴を聞いたから、教えにきたのかな。
吐き気がする、眩暈がする。
ふと今朝の武川先生の顔を思い出して、ゆっくりと席から立ち上がった。
…先生に会いたい。
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